《観察を充分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと》
これは、ドラッグストアなどで購入できる市販の鎮痛剤に共通して記載されている注意書きの一節だ。頭痛や生理痛、腰痛など悩む人々にとって、薬が大事な局面で苦痛から解放してくれる“救世主”としなっている。だが、その一粒が、のみ方次第で新たな症状を生んでいる可能性がある──。
鎮痛剤ののみすぎで胃に穴が
専門家たちが口を揃えて安易な服用に警鐘を鳴らすのは、ロキソプロフェンに代表される「NSAIDs」と呼ばれる鎮痛剤だ。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんが解説する。
「『NSAIDs』とは非ステロイド性抗炎症薬のことを指し、ロキソプロフェンやイブプロフェン、ジクロフェナクナトリウムなど多くの解熱鎮痛剤がこれに該当します。報告されている副作用の中で特に多いのは胃への負担です。
非ステロイド性抗炎症薬は痛みの原因となる『プロスタグランジン』という物質の働きを抑えて症状を緩和しますが、プロスタグランジンには胃の粘膜を守る働きもあり、その作用も同時に抑制されてしまうのです」
北品川藤クリニック院長の石原藤樹さんは、NSAIDsの服用が重篤な事態を引き起こした事例をあげる。
「腰痛を和らげるためにのんでいたロキソプロフェンが原因で、胃全体に出血を伴う潰瘍ができた60代の男性患者がいました。通常ならば胃痛などの自覚症状によって、もっと早期に発見できるはずが鎮痛剤の効能で、痛みを感じないまま進行し、定期健診の胃カメラによって発見されました。もし健診がなければ、胃に穴があくまで気がつかなかった可能性すらあります」
恐ろしいのは胃への悪影響だけではない。
「フランスで高血圧の人を対象に調査を行ったところ、その約8割がNSAIDsをのんでいるという結果が。プロスタグランジンには血管を拡張させる働きもあるため、薬によってその働きが抑制された結果、血管が収縮して血圧が上昇することが理由だと考えられています。実際に、高血圧の患者がロキソプロフェンの服用を中止することで、血圧があっさり下がったというケースも散見されます」(長澤さん)
石原さんが懸念するのは、さらに大きな病気のリスクを上昇させる可能性だ。
「最新の研究によって、NSAIDsの服用が心筋梗塞や脳梗塞、脳卒中などいわゆる“血管病”のリスクを上昇させることが明らかになっています。短期間の服用でもリスクが増すとの報告もあり、のむ量は最小限にした方がいい」(石原さん)
最小限にすべきは、貼り薬や塗り薬も同様だ。
「ロキソプロフェンやジクロフェナクナトリウムはのみ薬だけでなく、湿布や塗り薬にも使用されているため、注意が必要です。鎮痛剤をのんだうえで痛み止めの貼り薬を重ねて使う人もいますが、薬の血中濃度が高くなり、非常に危険です」(長澤さん)