5月29日、福岡県の須恵、篠栗町で、震度6強の大地震と1時間130mmの大雨が同時に発生した場合に備える防災訓練が行なわれた。複合災害の中でも懸念されるのが、巨大地震と近年頻発するゲリラ豪雨の組み合わせだ。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が語る。
「これから本格的に梅雨に入る中、巨大地震とゲリラ豪雨が複合的に生じると、地震と水害の被害が掛け算になって広がります。こうした万が一の事態を想定しておくのは非常に重要です」
東京を襲う首都直下地震の被害想定は10年ぶりに見直された。5月25日に東京都が発表した災害シナリオの報告書では、地震後に揺れなどにより建物が倒壊し、広い範囲で火災や停電、断水が生じる。さらに交通網の寸断による救出・支援活動の遅れや震災関連死が発生するリスクまで指摘されている。
最も巨大な「都心南部直下地震」(M7.3)では、震度6強以上の揺れが生じる範囲は東京23区の6割以上に達し、建物被害数は約19万棟、死者数は最大で6000人を超えると想定されている。
被害のポイントは地震による液状化である。工学院大学建築学部教授の久田嘉章氏は言う。
「巨大地震で液状化が発生すると地盤が沈下し、上下水道や電気などのライフラインが被害に遭う可能性が高い。その際にゲリラ豪雨に見舞われ、下水道が溢れると、被災生活にも影響が出ます。最悪のケースが揺れや液状化によって被災した堤防が洪水や高潮などの水位上昇で決壊することです。そうなれば被害の大きさは計り知れません」(久田氏)
『週刊ポスト』は専門家の見解をもとに、東京都で巨大地震とゲリラ豪雨が同時に発生したことを想定したマップを作成した。際立つのは、東京東部が抱える脆弱性だ。中でもリスクが大きいのが、荒川や江戸川が流れる江東5区(江東区、墨田区、足立区、葛飾区、江戸川区)エリアだ。
「海抜ゼロメートルの地点がたくさんあり、地震と大雨で堤防が破損すれば、ほぼ全域が水没します。流れ込んだ水がなかなか引かず、浸水は一か月近くに及ぶ可能性もある。再開発で乱立するタワーマンションの住民が孤立して、避難物資が届かない恐れもあります」(渡辺氏)
またゲリラ豪雨の規模によっては、さらに広いエリアまで被害が及ぶ可能性もあるという。渡辺氏が続ける。
「荒川や隅田川、江戸川の堤防が決壊した場合、浸水被害は丸の内や銀座などのエリアにも及ぶとの試算があります。今回出された報告書でも同エリアは液状化の危険度が高いとされているので、ゲリラ豪雨との同時発生には注意を払うべきです」
国が管理する大規模河川以外にもリスクは潜んでいる。工学院大学建築学部教授の久田嘉章氏氏が語る。
「都道府県が管理する神田川や石神井川などの中規模河川、市区町村が管理する中川や綾瀬川などの小規模河川流域沿いのエリアも浸水が想定されます。また、渋谷などにも都市河川はあり、浸水被害のリスクがある。より細かく浸水が予想されるエリアを知るには、各自治体が公表している『水害ハザードマップ』を見るのが良いでしょう」
※週刊ポスト2022年6月24日号