転職をしたり起業したりするように、いろいろなキャリアを積んだ人が民間でも官僚の世界でもポジションを得ていくことで、広い視野や多様な発想が生まれるわけですが、日本はそれが乏しい。
霞ヶ関の官僚は優秀です。ただ、やっぱり一本道なので、限られた思考方法にとらわれがち。職場に押し寄せてくるいろいろな業界団体に配慮するようになり、どうしても癒着が生じてしまいます。
先に述べた回転ドア式に、官僚が民間企業に行って、今度は作家になってもいいし、それからまた官僚に戻る。そんなフレキシブルな動き方をすればいいのに、それをやってこなかったのが、平成の30年の失敗だと思うのです。
例えば石原慎太郎さんは、作家から参議院議員になって衆議院議員になって、運輸大臣や環境大臣(環境庁長官)をやったりして、それから都知事になりました。辞めて国政に戻り、その後はまた作家として仕事をされていましたね。
そうした例は外国にも多い。フランスの作家アンドレ・マルローは、カンボジアで捕まって収監されたけれど、フランスに戻って作家活動をした後、ド・ゴール政権の文化大臣になりました。イギリスの有名作家ジェフリー・アーチャーも、作家として政治家になり、引退後は作家に戻っています。
さらに遡れば、19世紀フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーも作家で政治家でした。『神曲』で知られるダンテは、政治家としてフィレンツェを追放されて、それから作家になった人です。
自分の発想を活かしていくには、当たり前のようにポジションを変えていかなければならない。日本で言えば、参議院がその場所にふさわしいのではないでしょうか。戦後の参議院には『路傍の石』で知られる山本有三をはじめ、作家や評論家、新聞記者出身の議員が何人もいます。参議院とは、日本における最後の、文化的な拠点としての政治参加の場所だと思います。