「80歳を超えて元気で過ごすには、“我慢をやめる”ことが大切です」と指摘するのは、高齢者専門の精神科医としてこれまで6000人以上を診察し、近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)や『老いが怖くなくなる本』(小学館新書)が話題となっている和田秀樹氏だ。
和田氏がまず、やめていいと指摘するのが健康診断だ。健康診断で数値が悪いと医師から生活指導を受け、正常値に戻す治療を促されるが、和田氏は「70歳からは結果を気にしなくていい」と言う。
「健康診断の結果は現代人には合わないと考えられます。例えば、1980年まで日本人の死因の1位は脳卒中で、当時は血圧が150程度で脳の血管が破れていました。そのため血圧を下げる生活指導が盛んになったのですが、栄養状態が良くなり、たんぱく質を多く摂取するようになった現代の日本人の血管は丈夫になった。今では血圧が200あったとしても破れることは少なくなりました。
もちろん、脳に動脈瘤がある人はくも膜下出血のリスクが高まるので血圧を下げる治療の効果はありますが、一律に血圧を下げなければならないと考える必要はありません」
同じく、生活習慣病予防のために血糖値やコレステロール値を正常値に戻そうと減塩したり甘いものやお酒を控えることにも和田氏は疑問を呈す。
「脳内出血が少なくなってきたために、健康診断の目的は“動脈硬化予防”にシフトしました。動脈硬化は血管の壁が厚くなることを指しますが、生活習慣病によって進行していくため、血圧や血糖値、コレステロール値のコントロールが推奨されています。
ただし、動脈硬化の最大の要因は加齢です。それを無理に薬で数値を下げることにはリスクもある。脳に酸素やブドウ糖を巡らすためには、70歳を過ぎたらむしろ血圧や血糖値はある程度高めのほうがいい。食事制限による低血糖に陥るより、好きなものを食べて血糖値を保ち、脳などの血流を良くしたほうが元気に過ごせます」
旧来の常識である食事制限や体重制限の考え方はアメリカを手本にしており、「そもそも日本人には合っていない」と和田氏が続ける。
「アメリカでは、肥満を忌避しダイエットを推進する健康志向が強い。ただし、それはアメリカ人の死因の1位が心疾患で、その背景に肥満が多いことがあると考えられているからです。がんが死因のトップである日本でアメリカ型の健康法は合理的とは言えません。
例えば、コレステロール値が高いと心筋梗塞を起こしやすく、低いとがんになりやすいという疫学調査があります。さらに、がんの予防には免疫力を高めることが重要で、血圧や血糖値、コレステロール値を薬で下げて免疫機能を落とすことは、がんのリスクを高めることにもなりかねません」