大河ドラマなど、歴史ものの作品には馬の存在は欠かせない。そうした馬はどのようにして選ばれるのか。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、現在放送中の『鎌倉殿の13人』を含め多くの映像作品で馬術指導を担当するラングラーランチの田中光法さんに、役者が乗っても演技ができる馬について話を聞いた。
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田中:「役馬」という、役者さんが乗れる馬というのは相当仕上がっているんです。僕らみたいな技術者が乗って初めて御せる馬とは違うわけです。
役者さんは、大河ドラマでも多くて二十回から三十回ぐらいの練習しかできません。乗馬の世界ではまだまだ素人。役馬は、そうした「乗れない人」が乗っても演技ができる馬でなければなりません。
それを育てるために、僕はアメリカに直接買いつけに行きます。そして必ず全ての馬に乗り、その中から選定して買ってくる。短期間でその馬を調教しないといけないので、どんな馬でもいいわけではないんですよね。
──馬を選定される際は、どのような基準なのでしょう?
田中:まず、人間からの操作を受けられる素直さを持っているか。それから、身体のやわらかさ、そして身体のバランスですね。あと、これは乗ったときの感覚なのですが──頭の良さです。
日本の馬術家でも、海外から調教が出来上がってる馬を買ってくるというパターンが意外と多いんです。その馬の身体のやわらかさとかを見ないんです。障害を飛ぶ能力があるかないかぐらいの判断でしか、馬を選定しません。
でも僕は一から育てていくので、そうはいきません。特に、身体のやわらかさは非常に重要なのです。人間も身体が硬いとケガをしやすいですよね。それに、身体を動かすときに苦しくなってしまう。これは馬もまったく同じなんです。
特に馬は、ものすごく素直なので、痛いこと、苦しいこと、怖いことはやりたくないんです。たとえば、「曲がれ」という動きを教えるときにも、馬の身体が硬いと、それだけで苦しい動きになり、苦しい運動になりますよね。そうすると、「やりたくない」となってしまう。