本年度に入り、コロナ感染者が減少の一途を辿っていた頃、政府や関係当局には「人混み以外の開けた場所ではマスクを外すべき」という論調が広がっていた。学校教育の場では、体育や学外活動の際、特に気温が高い日などは「マスクを外す」よう生徒に指導していた教員も多かったと話すのは、千葉県内の私立中学教頭・野中忠彦さん(仮名・50代)。
「男子生徒は喜んでマスクを外すのですが、確かに女子生徒の中にはマスクを頑なに外さない子もいました。体育の授業などでは、マスクを外さずに運動をして、ゼイゼイ音を立てて息をしたり、マスクが汗でべっちょり濡れて余計に息ができなくなっているのに外さない。陽が照っていると、日焼けでマスクの跡が残り、余計にマスクが手放せなくなったという子もいましたね」(野中さん)
そんな女子生徒を見て違和感を覚えているのは、喜んでマスクを外していた男子生徒たち。マスクを取らないのはおかしい、恥ずかしいのかと笑われ、ショックを受けた女子生徒も少なくなかったという。さらに、そんな子供たちを追い込むのは、大人の間で散見される、二元論的な「マスク着用」の是非だ。
「教員によっては、何があろうとマスクを外すべき、一方で、絶対に着用すべき、と極端な見解を持つ者もいて、それが子供たちを戸惑わせています。政治家もマスクを外すべきといっていた、とか、うちのお父さんは絶対にマスクをすべきと言っていた、と大人の意見に振り回されているんですよ。着用の是非について大人でも迷うのに、判断する能力が備わっていない子供たちの混乱は相当なものです」(野中さん)
当たり前のことだが、マスクを着けるかどうかは、環境やその人の体調、周囲の状況などをかんがみて、そのときどきに合わせて判断すればよく、誰かに強制されるようなことではない。感染症に関わることだから、専門的な知見からのアドバイスは参考にすべきだろうが、誰かの思い込みで左右されるべきではない。
だが、街中でも、マスクを外さず堂々としている大人を見てギョッとしたり、怪訝な目でノーマスクな人を睨みつけるような人がいる。一方、広い場所で密でもないのにマスクをしている人を見て、陰口を叩くような大人だっている。大人ですら戸惑うそんな「二元論」的な主張がぶつかりあう世界は、子供にとっても生きづらい。いつの世も、大人同士の勝手な論争に翻弄されるのは子供たちなのだ。