マスクがないと不安でたまらない人たちがいる。「ノーマスク不安症」などと呼ばれることもある人たちの多くはルッキズム、外見つまり容姿が人間の価値を決めるという極端な考えに囚われているのが原因だと言われてきた。その不安症は、新型コロナウイルスの感染拡大対策のために目立たなくなっていたが、感染拡大が落ち着き、マスク着用が義務づけられる場面が減少するとともに再び、クローズアップされてきた。ライターの森鷹久氏が、ノーマスク不安症に陥ったり、マスクをするべき外すべきと争うようになってしまった子供たちについてレポートする。
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「マスクを外すのなら体育はやらない、ある児童にそう言われてどうしようもありませんでした。運動が好きだった子で、マスクをしながらの体育はとても苦しそうに見えるのですが…」
都内の公立小学校教員・牧山理子さん(仮名・40歳)が思いつめた表情で話すのは、受け持つ小5クラスの女子児童に「体育の時はマスクを外していいよ」と声をかけたところ、泣き出してしまったことだ。女子児童の親に報告すると、あるサイトで見かけた動画がきっかけになって、マスクをはずせなくなっているようだった。
「その動画は、マスクを着用していると美人に見えるけど、マスクを取るとそれほど美人に見えなくなる、という動画だったそうです。児童は顔にコンプレックスがあるようで、マスクをしているとイキイキしているのに、マスクを外した途端うつむいて、急に消極的になる傾向がありました」(牧山さん)
この傾向はコロナ禍以降、男女を問わず起きているようだ。マスクを外すこと自体がパンツを脱ぐのと同様に恥ずかしいと感じてしまう人たちが一定数いることから、ネット上では、過敏になっている人にとってのマスクを「顔パンツ」と呼ぶむきさえある。
「私も若い頃、風邪が流行る冬などに着用するマスクがどことなく心地よく、顔が隠れて安心するようなこともありました。コロナ禍前、夏でもマスクをしている年頃の女の子もいましたが、小学生でもそうなるなんてショックで」(牧山さん)