「家計が値上げを受け入れている」。黒田東彦・日銀総裁の講演(6月6日)での発言は物価高騰に苦しむ国民の怒りを呼び起こし、SNS上では「#値上げ受け入れてません」がトレンド入り、黒田氏は国会に呼ばれ、「誤解を招いた表現で申し訳ない」と謝罪して発言撤回に追い込まれた。
当然だろう。いま、国民生活はこの半世紀経験したことがない値上げラッシュの大波に直面している。
食品だけを見ても、今年に入ってすでに6285品目が値上げされ、7月以降には4504品目の値上げが予定されている(帝国データバンク調べ)。電気・ガス料金も全国で上がり続け、東京電力の7月の料金はモデル世帯で1年前から24%アップ、東京ガスは同じく25%アップする。政府が過去最高額の補助金を投入して上昇を抑えていたガソリン価格もついに値上がりに転じた。経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。
「電気代やガス代が1年で2割以上値上がりなんてとんでもない話です。食品の値上げも7月以降に4504品目とされていますが、それは氷山の一角。物価上昇はまだまだ続いていく。
食品値上げの理由の一つは輸入小麦の価格上昇ですが、現在の国内業者への売り渡し価格にはまだウクライナ侵攻による高騰分が盛り込まれていない。それが10月の価格に反映されるから、秋以降は食品の再値上げ、再々値上げがやってくる。国民は値上げラッシュに必死で耐えながらなんとか家計をやりくりしているのであって、許容なんか冗談じゃない」
問題は「値上げ許容」発言だけではない。黒田講演で最も重要なのは、企業の値上げを後押しする次の部分だ。
黒田氏は「企業の価格設定スタンスが積極化している」、つまり、企業が値上げをためらわなくなった背景には、国民はコロナ自粛で使いたくても使えずに貯蓄に回した「強制貯蓄」(日銀試算で50兆円)を持っているから値上げを認めている可能性があり、「日本の家計が値上げを受け入れている間に、良好なマクロ経済環境をできるだけ維持し、(中略)賃金の本格上昇にいかに繋げていけるかが当面のポイント」と語った。
そのうえで、日銀は「持続的な物価上昇へと繋げていくよう、揺るぎない姿勢で金融緩和を継続していく」と強調したのだ。荻原氏が言う。
「現実は賃上げどころか、国民はコロナで給料が下がり、いつリストラされるかわからない。そのうえ、物価は上がり続けている。強制貯蓄とは、庶民が先行きが怖いからモノを買わずに死ぬ思いで貯めた金です。このカネがあるうちに企業は値上げして収益改善なんて、国民の生活など気にしないで企業が儲かればいいという発想です。結果的に50兆円貯まっているかもしれないけど、それはあなたのカネではないと言いたい」