日本人の死因の第1位で「国民病」とも呼ばれるがん。よく“がん家系”という言葉を耳にするが、がんの発生と遺伝の相関関係は世界中で長年の研究課題とされてきた。がんと「遺伝」や「家族歴」を巡る研究結果が次々と明らかになっているが、実際に「親子でがん」になった当事者はどう感じているのか。
中咽頭がんを患った俳優の村野武範(77)は、「母親ががんになっていたことは頭にありましたが、50代まで1日100本は吸っていたタバコのほうが気になっていたのも事実。2人に1人ががんになる今、何とも言えないという気持ちです」と語る。
親に罹患歴があっても、自身ががんになる前の心構えや罹患した時の気の持ちようは人それぞれのようだ。元フジテレビアナウンサーの露木茂(81)は、腎臓がんを医師から告げられた際、「母も胃がんだったし、関係あるのかなと思った」と語る。
「79歳で腎臓がんを患うまではずっと健康体で、タバコを1日1箱吸っても、お酒を毎日飲んでも不調知らずでした。一昨年、耐え難い腹痛に襲われて入院、虫垂炎とわかって手術。その時の検査で、偶然腎臓がんが見つかった。言われてすぐ、母が胃がんで苦しんだことを思い出しました。先生から『ご家族でがんになられた方はいますか』と聞かれ、『母が胃がんで亡くなっています』と答えました。僕の周囲にも、がんになって医師に『身内にいるか』と聞かれた人がいます」
むしろ露木は父母から「丈夫な体」を受け継いだと思っていたという。
「母も私と同じで、82歳で胃がんを患うまで健康体でした。75歳で入浴中に心臓麻痺で亡くなった父も、ずっと健康。私も79歳まで何の不調もなかったのは、父と母の強い体を引き継いだと思って感謝していました。息子が2人いますが、彼らもいたって健康で、心配はしていません」
一方で母方の祖父、母、そして自身ががんになった元プロレスラーの小橋建太(55)はこう言う。
「10万人に約6人しかいない腎臓がんに罹ったのはチャンピオンベルトを奪い返したばかりの39歳の時で、『何で俺が』という思いでした。母方の祖父が80代で膵臓がんで亡くなり、母は僕が発症した翌年に大腸がんを患いましたが、当時はそのことを気にする余裕はありませんでした。
色々な医師に遺伝について尋ねましたが、がんのほとんどは環境的な要因が大きいと言われました。ただ言えることは、がんは2人に1人が罹り、3人に1人が亡くなる病気だということ。決して他人事ではありません。僕には娘がいて、彼女のことは少し心配に思うことがあります」