アダルトビデオ(AV)の出演被害防止を定めた通称「AV新法」が参院本会議で可決された。女性への出演の強要は是正されるべき問題だが、立憲民主党が性行為を伴うAV自体の禁止に言及するなど、議論はいまなお紛糾している。AV新法のポイントは以下の通りだ。
・出演契約は各作品ごとに締結する
・撮影の具体的内容を書面で交付する
・全ての撮影終了から4か月間は公表を禁止する
・AV公表後1年間、無条件で契約を解除できる
AVの現在、そして未来について、井上章一氏(国際日本文化研究センター所長)、馬場淳氏(和光大学教授・文化人類学者)、平野勝之氏(映画監督)、安田峰俊氏(ルポライター)の4氏の見解を聞いた。
●井上章一氏(国際日本文化研究センター所長)
まず前提として、私はAVに関して完全に肯定的な立場ではありません。女性の人権の観点からいえば、AV業界は様々な問題を孕んでいるので、新法に関する議論が進むことには意義があります。ただ、だからといってAVの存在そのものを否定してしまうのは、ちょっと違うのではないか。
AVが普及する以前は、非合法の「ブルーフィルム」がアンダーグラウンドで制作上映されていました。熱海などの温泉街で遊んでいると「お兄さん、いい映画あるよ」などと声をかけられ、結構な額のお金を払うと上映会がこっそり行なわれている場所に連れていかれる。それはおおむねヤクザの資金源になっていて、出演した女性がいいなりになっていたというケースも多かったようです。
しかし、個人が自宅でも観られるAVが普及するようになると、コソコソと上映会に集まる必要もなくなり、ブルーフィルムは絶滅しました。新法による規制が過ぎれば、アンダーグラウンドで映像を制作し、金儲けをする組織が再び出てくることは容易に想像がつきます。
あるドイツ人から聞いた話ですが、1989年にベルリンの壁が崩壊するやいなや、多くの東ドイツの男たちが西ドイツのポルノショップに走っていったそうです。「性的な表現の自由」を求める東ドイツの男たちの思いが、壁を壊すエネルギーに含まれていたのかもしれません。
男というのはみんなオオカミのような本性を隠し持っている。その本性があまりに抑圧される社会になると、いずれ暴発しかねない。むしろポルノがオープンな社会で、男たちをエロに飽き飽きさせて飼い馴らしているほうが治安維持につながるのではないでしょうか。
“男女の不平等性”を問題視する声もあります。「女性がモノのように扱われている」との批判ですが、モノ扱いされているのはむしろAV男優のほう。お尻ばかり映されるし、お金も女優さんほど貰えないでしょう。是正するなら、女性たちがうっとりするような美男子が出演する女性向けのAV市場を育むなど、男優の地位向上を図るほうが建設的なのではないかと思います。