大河ドラマなど、歴史もので合戦シーンは大きな魅力だ。戦場を多くの馬たちが駆け巡るが、よく考えると、これだけ多くの馬たちが一斉に、しかも戦術や陣形に応じて自在に動き、立ち回りの動きに合わせられるというのは並大抵のことではない。いかにして、その動きは作られるのだろうか。映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、現在放送中の『鎌倉殿の13人』も含め、多くの映像作品で馬術指導を担当してきたラングラーランチの田中光法氏に聞く。
──合戦シーンでは馬に求める動きも複雑になりますよね。どう指示されているのでしょうか。
田中:役者さんを乗せる前に、必ずうちのスタッフが乗っています。殺陣には立ち回りの「型」がありますよね。まずこの人が襲ってきて、次に刀をこっちへ払って──というような。それと全く同じです。
こう突っ込んでいき、そうしたら次にこちらから人が襲ってきて、次にあちらの人が刀を振りかざしてくる──ということを、うちのスタッフが乗って、ゆっくりその動きをやり、馬に覚えさせます。
人間でも、歩いている時にいきなり槍を出されたら驚きますよね。でも、事前にその動きをゆっくり体験しておけば「ああ、こちらからこの人が来るんだな」「あちらから刀を振ってくるんだな」ということは馬も覚えられる。だから、驚かなくなる。「段取り通りね」という感じで、馬がそれを覚えているわけです。
「この速度で走っていくんだよ」「ここへ来たら止まるんだよ」というのも、一、二回のテストで馬に覚えさせます。それができるのが役馬なんです。そうすると、あとは役者さんを乗せて「よーい、スタート!」で手を離してあげれば、言われた通りに走って、言われた通りに止まることができるわけです。
──合戦シーンでは一頭だけでなく、何頭も同時に動きますよね。そのタイミングはどう合わせているのでしょうか。
田中:エキストラ馬に関しては、本番もうちのスタッフが乗っているので、全て役馬の動きに合わせることができます。
──動ける馬をそれだけ揃えるのも大変ですよね。
田中:ハリウッドでは「主役専用の馬」というのがいます。でも、日本は役馬の数が少ないので、一頭の馬がさまざまな役割を演じています。役馬がエキストラをやることもありますし、一頭の馬で何人もの役者さんを乗せています。
──シーンが違えば、味方と敵方で同じ馬が出てくることもあるわけですね。
田中:そういう時はバレないように、馬の毛色を変えるなど、「メイク」をしているんですよ。