矢野・阪神に向けられる視線が大きく変わったのは、セ・パ交流戦(5月24日~6月12日)の後半からだ。
西武との3連戦の初戦に敗れた5月31日の時点では、交流戦の成績が3勝4敗、セで最下位に沈んでいた。在阪スポーツ紙は〈21世紀最速、屈辱54戦目。矢野監督・自力V消滅〉(6月1日付・スポニチ)といった手厳しい見出しを掲げた。
それが、6月3日からの甲子園での日本ハム戦に3連勝。同7日からのソフトバンク、オリックスとの6連戦を前に交流戦8勝4敗でヤクルトに次ぐ2位になると、〈交流戦5連勝でノリノリ矢野監督〉(7日付・サンスポ)と威勢がよくなり、交流戦を12球団中2位で終え、〈輝、チーム勝たせる4番になる〉(14日付・デイリー)〈球界を代表するエース青柳、獲る沢村賞〉(15日付・スポニチ)〈逆転Vの使者、頼もし第一声。ロドリゲス勝利に貢献する〉(21日付・サンスポ)と、ちょっと前がウソのような“お祭り騒ぎ”となった。
熱心な虎ファンで、阪神優勝の経済効果の試算でも知られる関西大学名誉教授の宮本勝浩氏は、「阪神、頑張っているね」と目を細めてこう話す。
「矢野監督は本当にチームを明るくしてくれた。金本(知憲)前監督時代は選手がピリピリしていたからね。選手が自軍のベンチの監督の顔色ばかり見ていたように思う。それがなくなり、選手がノビノビやっているのが矢野・阪神ですね」
春先は絶望的だった。開幕戦で7点差を引っくり返されて黒星発進となると、そこから悪夢の9連敗。
「2年連続セーブ王だったスアレスが抜け、守護神に指名された新外国人のケラーが大誤算。一軍で通用するレベルではないのに、矢野監督がストッパー起用を決めたとして批判の声が広がっていた」(阪神担当記者)
矢野監督の奇妙な言動も批判に拍車を掛けた。
2月1日のキャンプイン前日の全体ミーティングでは、「今シーズン限りの退団」を表明。前代未聞のタイミングだった。さらには矢野監督がハマる「予祝」も注目された。
「喜ばしい未来を想定してあらかじめ模擬的に祝うことで、喜ばしい現実を引き寄せられるという趣旨のもの。もともとは豊作を祈願して模擬実演する行事なのだそう。矢野監督が予祝を信じていることが選手にも浸透し、キャンプでは糸井嘉男と西勇輝が中心となって室内練習場で矢野監督を胴上げ。優勝の予祝をしていました」(同前)
チームが絶不調では、“奇行”として注目されるばかりだったが、それも流れが変わった。
6月17日のDeNA戦で4番・佐藤輝明が4タコに終わると、矢野監督は「明日は輝が打ってくれる」と発言。特に根拠はなさそうだったが、翌18日、佐藤は逆転の2点タイムリーを放つ。〈予言通り〉〈将の予告現実に〉といった見出しが並び、矢野監督は“喜ばしい未来”を引き寄せたのだ。