今もその対応に悩まされている新型コロナウイルスだけでなく、人類は様々な感染症とともに生きていかなければならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、エボラ出血熱についてお届けする。
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「新顔のウイルスは、環境破壊の進んだ地域から浮上している」
これはエボラ出血熱(エボラウイルス感染症)を描いた『ホット・ゾーン』(リチャード・プレストン著 高見浩訳、飛鳥新社)からの一文です。
この百年、世界人口は飛躍的に増加し、熱帯雨林などの野生動物の生息地域の開発も急拡大しています。人が野生動物のエリアに侵入することで動物由来の未知のウイルスに暴露され、人の社会に新型ウイルスが出現するリスクが高まります。そして、地球の一地域で発生したそのようなアウトブレイク(悪疫・感染症の突発的発生)は、グローバル化した高速大量輸送網に便乗して、短期間でパンデミックに発展するのです。
エボラウイルスはおそらくオオコウモリを自然宿主として密林に生息し、それに感染した野生動物の死体や生肉に直接触れたことで人が感染します。
2014年、中央アフリカの“密林地帯の風土病”であったエボラ出血熱が、西アフリカ三国(ギニア・リベリア・シエラレオネ)で急拡大。2016年にWHOによって終息宣言が出されるまでの感染者数は、これまで20回以上のエボラのアウトブレイクの総感染者数をはるかに凌駕したのです。遺体が路上に放置され、医療は崩壊。もはや現地政府では制御できない状態に陥って、国連安全保障理事会は緊急会合を開き、異例とも言える公衆衛生上の安保理決議を採択したのでした。
エボラ出血熱は平均7~10日の潜伏期をおいて、インフルエンザ様症状から嘔吐下痢などの消化器症状が表れることが特徴で、さらに重症化すると吐血、口腔歯肉や消化管などから出血が起こります。実際に出血症状が出るのは全患者の7割で、重篤化した場合に限られますが、内出血、外出血を伴うと意識混濁からショック症状に陥り、死に至る場合が多くなります。