まだ6月だというのに、観測史に残る記録的な猛暑が日本列島を襲っている。熱中症リスクが高くなることもあり、厚生労働省は「近距離の会話を除き屋外ならマスクを外す」よう呼びかけているが、街中はマスクを着用している人ばかり。呼びかけは広く浸透しているとは言えないのが現状だ。とりわけ対応に苦慮しているところのひとつに、「教育現場」がある。なぜ、国が不要と呼びかける生活シーンにおいても、マスクを外すことができなくなっているのか。有識者は強固な「ヨコの同調圧力」の存在を指摘した。
教育現場では、熱中症対策と感染症対策の両立が求められている。京都新聞は府内の教育委員会を取材し、〈登校時のマスク、地域で対応割れる 「外す」多いが「原則着用」も〉(6月18日付)と題して報じ、話題を呼んだ。東京都ではどうか。東京都教育委員会は「国からの通知に基づき指示、呼びかけをしている。熱中症対策としてマスクを外せる場面では、積極的に外すよう繰り返し学校に伝えている」(総務部教育政策課)と回答。
区市町村立の幼稚園、小・中学校等を所管する区市町村教育委員会も、対応に追われている。墨田区教育委員会では、学校への通知と保護者向けの手紙でマスク着用のガイドラインを周知してきたが、5月末から6月上旬にかけて保護者からの問い合わせが寄せられたという。墨田区学務課給食保健担当は取材にこう応じた。
「東京都のリバウンド警戒期間が明けた5月下旬以降、メールや電話で『学校生活ではマスクを外せるようにしてほしい』『マスクを外す通知をもらえないか』といったご意見を多数いただきました」
感染症対策については、文部科学省の通知をもとに対応しているというが、5月末以降に少しずつ通知のニュアンスが変わっていったと担当者は続ける。
「5月24日の通知では、熱中症対策としてマスクを外すことを認めつつも感染症対策が前提という印象でした。通知を受け、ある学校の副校長先生からは『2メートルの距離を取って会話をしないで下校してもらうのは現実的に難しいのではないか』という声がありました。それが6月10日の通知では、まずは熱中症対策を優先するという書き方に変わった印象です」(同前)
教育現場でも感染症対策と熱中症対策の両立に悩む声があったためか、国の通知も少しずつ熱中症対策を重視するように変わってきたようだ。
マスクと熱中症リスク「客観的なデータ」が重要に
一方、渋谷区教育委員会は、学校向けの感染症予防のガイドラインを作成、周知している。体育祭や運動会が立て込む6月上旬には「熱中症防止のため、競技中はマスクを外す」よう各校に求めた。同区教委の教育指導課の担当者はこう話す。
「運動会当日の校長先生の挨拶でも、競技中はマスクを外すよう呼びかけてもらいました。入場から退場までマスクを外す対応の学校、自分が走る順番では外して、走り終わったら着ける対応の学校もありました。ただ、今まで2年間マスクを着けっぱなしだったので、マスクを外したくないという児童もいます。校長先生たちの報告では、『素顔を出すのは人前で服を脱ぐのと同じ感覚だと考えている』『外したら感染するのではないかと不安を抱えている』といった声が聞かれました。学校も熱中症対策と感染症対策の両立で苦慮している部分があります」