注目の作品の幕が続々と開いている。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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梅雨を飛び越し猛暑に突入した日本列島。あまりの暑さに家に籠もりたくなる日々ですが、ドラマ好きにとっては好機かも。なぜなら、身もだえのするような面白いドラマが次々に始まったから。これならおうち時間も充実この上なし。ということで、6月末スタートしたばかりの3作品の魅力をご紹介したいと思います。ファンタジーと現実のあわいを描く作品あり、現実に飛び火しそうなヒリヒリ感もあり。3つドラマの作風はそれぞれ個性的ですが、共通点も発見できました。
●『空白を満たしなさい』(NHK総合土曜午後10時)6月25日スタート
「復生」=死から甦った土屋徹生(柄本佑)が主人公。生き返って自宅に戻った男は、自分がなぜ死んだのかわからない。自分は絶対に自殺などしない、だから誰かに殺されたのではと疑いつつ真相に迫っていく……と、シリアスでスリリングな作風でありながら、どこか荒唐無稽でSFの匂い漂う独特なドラマです。
まず見所は、主人公を演じている柄本さんの「爬虫類のような」表情にある。抑制された感情が効果的で、いわば無表情が不思議な世界を饒舌に物語る面白さに満ちています。妻を演じる鈴木杏さん、上司役の渡辺いっけいさんなど周囲もがっちりと演技上手たちが固めています。その中で何と言っても目立つのが、主人公にまとわりつくストーカーもどき佐伯役・阿部サダヲさん。気持ち悪すぎてもはや「不気味の極北」。つまり、このドラマは役者を見る楽しみに溢れています。
脚本もいい。原作は芥川賞作家・平野啓一郎氏による東日本大震災直後に発表された同名小説。「もし亡くしたはずの大切な人に会えたら」という着想から生まれた作品で、脚本担当は映画『そこのみにて光輝く』『ボクたちはみんな大人になれなかった』などを手がけた高田亮氏。つかみから謎とスピード感に満ちた演出で、視聴者はドラマ世界へと一気に引き込まれます。
●『オールドルーキー』(TBS系日曜午後9時)6月26日スタート
注目の中で始まったTBS日曜劇場の社会派ドラマ。日本のドラマとしては珍しい「アスリートのセカンドキャリア」問題をテーマにして視聴者の心をぐいっと掴みました。ピッチ上で輝くサッカー選手たち。しかし、引退に直面した心境や引退後の進路についてはほとんど知られていない。隠れた苦悩や苦闘をドラマで見せるこの作品、エンタメのみならず社会的な意義も大きいようです。
実際、撮影現場に5人の元Jリーガーも参加し協力。選手・元選手たちからもドラマについて絶賛のコメントが。
FC東京等でプレーした増嶋竜也氏は「当てはまることが多くて 心が苦しくなる…」、引退したばかりの大久保嘉人氏は「本当にリアルで笑いあり涙ありのドラマ」、東京V等にいた端山豪氏は「プロサッカー選手を辞めるんだって、自分に言い聞かせた時のあの気持ちや記憶がまだ昨日のことのようで胸が痛い。」(「サッカー批評」2022.6.28)。
演出は『映画 クロサギ』『テセウスの船』などを手がけた石井康晴氏。オリジナルの脚本はベテラン福田靖氏によるだけあって、スポーツと社会との接点を鋭く突いていく。2回目以降もアスリートという存在の「光と影」を存分に描いてほしい。