アベノミクスの見直しから官僚人事までぶつかり合う岸田文雄・首相と安倍晋三・元首相。だが、この2人が唯一、歩調を合わせられる政策が年金の支給額引き下げである。容赦ない「年金減額」を実践したのが安倍晋三・元首相だ。8年間の長期政権でなんと年金を6.5%も引き下げたのである。
岸田首相もそんな安倍氏の年金改悪路線を引き継いでいる。首相に就任すると「全世代型社会保障構築会議」を設置し、年金・健康保険を合わせた社会保障制度改革に着手、今年1月の所信表明演説でこう打ち上げた。
「若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など、社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じてみんなが支え合う、持続的な社会保障制度の構築に向け、議論を進めます」
同会議が5月に発表した中間整理では、「勤労者皆保険(年金)」という新たな制度の創設が謳われている。
具体的な制度設計はこれからだが、非正規労働者やギグワーカー、フリーランスから自営業者の一部まで加盟する“新厚生年金”をつくることが議論されている。年金制度の変遷に詳しい「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。
「現在の年金制度では、年金支給額がどんどん減らされるから、制度は残っても老後の生活保障という年金本来の役割は果たせない。国民年金は完全に破綻、健康保険も限界に来ている。
岸田政権の勤労者皆保険制度というのは、パートやアルバイト、ギグワーカーたちに、『あなたたちも厚生年金をもらえるようになりますよ』とアピールして第3号被保険者(専業主婦)や国民年金の保険料を払っていない非正規層に厚生年金保険料を払わせるのが狙いでしょう。沢山の人から年金保険料を徴収し、当面の年金の赤字を埋めていく。若い世代が年金をもらうのは先の話だから将来の財源などは考えていない。まさに安倍政権が厚生年金の加入要件を拡大したことの焼き直し。抜本的な制度改革に手をつけたくないから、自転車操業を続けている」
アベノミクスの見直しを打ち出す岸田政権だが、年金改悪だけはそのまま引き継ぐつもりのようだ。いったい、政治家たちはいつまでオンボロな年金制度を“100年安心”だと言って改革を先送りし続けるつもりなのか。
国民はとうに嘘を見抜いている。
※週刊ポスト2022年7月8・15日号