「過去の人」エルヴィス・プレスリーが蘇った。
6月24日、全米3906の劇場で公開された『エルヴィス』(配給ワーナーブラザーズ)は最初の週末に興行収入3110万ドル(約42億円)を稼ぎ、目下上映中の『トップガン マーヴェリック』(2960万ドル=約40億円)の記録を抜いた。
『エルヴィス』は、「ロックの王様」プレスリーの人生を『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』のバズ・ラーマン監督(オーストラリア出身)のメガホンで映画化した新作だ。ザ・ビートルズやクイーンなど後に続く多くのアーティストたちに影響を与え、「世界で最も売れたソロアーティスト」として1950年代から1970年代までロック界に君臨したプレスリーの42年の生涯を描いた。
派手な衣装に身を包み、腰を小刻みに振って、つま先立ちでセクシーに踊りながら歌うパフォーマンスは、宗教保守層からは忌み嫌われたが、ティーンエイジャーの女の子を中心とした若者たちは熱狂した。
南部テネシー州の貧しいエバンジェリカルズ(キリスト教福音派)の家に生まれ、黒人低所得層に交じって幼年期を過ごしたため、幼い頃から黒人の音楽に慣れ親しんだ。それが、「黒人のように歌い踊る白人エンターテイナー」の原点だった。ローカルラジオで時々歌っていたのがスカウトの目に留まり、州内各地でツアー公演。それを足場に全米に羽ばたいた。ところが、海外で公演したことは一度もない。世界に向けた公演はすべて衛星中継だった。
マネージャーだったコーネル・トム・パーカー(コーネル=大佐の名称は軍役とは全く無関係で、選挙応援したルイジアナ州知事がニックネームとして授けた)がオランダから不法入国していたため、ひとたびアメリカから出国すると再入国できなくなることから海外公演は拒否したとされている。映画では、パーカー役を大御所のトム・ハンクスが演じている。パーカーはプレスリーの才能を見出した恩人だったが、強欲でプレスリーが稼いだ出演料の半分を一方的に取り、楽曲印税などの権利を独断で売買する。その金の大半をギャンブルに費やしていた。映画評論家のなかには、数々の輝かしい実績を持つハンクスが汚れ役を引き受けたことに批判的な声さえ出ている。