【プーチンと習近平・連載第2回】二人の緊密な関係は、2013年にプーチンが習近平にサプライズで手渡した“あるもの”から始まった。ジャーナリスト・峯村健司氏がレポートする。(文中敬称略。第1回から読む)
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「我々二人はとても似ている」
2013年3月22日、モスクワ中心部のクレムリン(大統領府)。わずか1週間前に国家主席になったばかりの習近平は、少し硬い表情で控室に入った。この日のネクタイの色は青。重要な会談や演説の時に習が好んで結ぶことが多い「勝負ネクタイ」だった。
遅れて入室してきたロシア大統領のウラジミール・プーチンと両手で握手をすると、習は満面の笑みで、こう語りかけた。
「我々二人はとても似ていると思う」
同行していた中国政府関係者は、習が発した突然の言葉に驚いた。
「あらかじめ用意した文言ではありませんでした。『似ている』とおっしゃった意味がよくわかりません。二人の性格なのか、政治スタイルなのか、戦略観なのか。随行者の間でも分析は分かれました。ただ普段は言葉数が少ない習主席が、こみ上げる喜びを抑えるように語りかける姿が印象的でした」
これに対して、プーチンはどのような受け答えをしたのだろうか。先の中国政府関係者は続ける
「プーチン大統領は最初、無表情でした。習主席が『似ている』とおっしゃった真意を測りかねているように見えました。しかし、プーチン氏はあいさつが終わって、会見場に向かう廊下を歩いている時には、機嫌がよさそうにほほえんでいました。それは、首脳会談などで、思い通りに進んでいる時に浮かべる不敵な笑みでした」
この証言を裏付けるように、プーチンは会談では饒舌に語りだした。習が初外遊先としてロシアを選んだことについて「両国関係を重視する互いの姿勢と関係の特殊性を示している」と評価した。そしてこう続けた。
「明日、あなたのために特別なイベントをセットした。私たちからのプレゼントも用意している。きっと喜んでくれると思う」
翌23日夜、訪問の全行程を終えた習は、プーチンに告げられたモスクワ市内の会場に向かった。そこで待っていたのは、12人の中国専門のロシアのシンクタンク研究者たちだった。一人の初老の女性が習に歩み寄り、白黒の写真がとじられたアルバムを手渡した。
このアルバムには、習の父、習仲勲が副総理になったばかりの1959年、ソ連を訪れた時の写真が集められていた。習仲勲はソ連の先進的な工業技術を学ぶため、機械製造や金属加工の工場などを視察した。帰国後は、中国で工場の建設や技術の指導を受けるため、ソ連から技術者を招く事業の取り仕切った。
この老人は当時、習仲勲の訪問に同行した通訳だった。それを知った習近平は老人の手を握り、何度も振りながら、こう感嘆した。
「これは天意だ」
プーチンが用意したサプライズの演出に、習が“籠絡”された瞬間だった。