近年、VIOラインの脱毛、腟洗浄、さらに腟トレと呼ばれるトレーニングなど、女性器ケアがオープンに語られることが増えた。その女性器周辺への意識の高まりが、新たな悩みを生み出しているのかもしれない。「下半身専門の美容整形」──その治療室を覗いてみた。
今年1月に東京・六本木で開業した「ヴェアリークリニック」は、日本では数少ない下半身専門の美容整形クリニックだ。院長の井上裕章さん(34才)は東京大学医学部を卒業し外科医の道を歩んでいたが、40代のがん患者の女性との出会いが、開業のきっかけになったという。
その女性患者は、大腸にがんが見つかり、がんを切除すれば完治が見込めたというが、頑なに手術を拒んだ。というのも、性器の形状にコンプレックスを抱いており、手術の時に見られるのが嫌だったというのだ。
その後、井上さんはこの女性患者に女性器の整形手術を提案。実際に、整形手術をしたうえで、がんの切除をし、命が救われた。この出来事で、それまで「がんを自らの手で治すことが医者の究極形」と思っていた井上さんの価値観がガラリと変わった。一念発起した井上さんは、つてを頼って美容整形クリニックで経験を積み、さらに女性器整形の分野で日本より10年進んでいるといわれている韓国に単身渡航。著名なドクターに師事し最先端の技術を会得、帰国後にクリニックの開業に至ったという。
患者はどんな悩みを抱えているのか
性器という体の中でも最もデリケートな部分ゆえ、悩みを共有することはかんたんではない。かつ、その悩みも千差万別だ。実際にどんな患者がクリニックを訪れているのか、プライバシーに配慮しながら紹介していく。
【1】平均より「ゆるい」から
「出産をして体調も戻り、夫婦生活を再開しようとした矢先、腟の“ゆるみ”が気になってしまったんです……」
そう話すのは、東京都在住の主婦、村上麻里さん(40代・仮名)だ。一般的に腟のゆるみは、男性の主観で語られがちだが、「腟圧計」により客観的に測定できる。井上さんが語る。
「腟圧を決める要因は、主に2つあるといわれています。1つは構造や形状によるもの、もう1つは骨盤底筋の強さです。前者は生まれながら、その人がどれぐらいの腟の広さ(内腔)を持っているかの問題なので、自分では変えられませんが、後者は腟や膀胱、子宮、直腸を正しい位置に保ってくれる骨盤底筋、つまり筋肉の強さなので、トレーニングで改善できます」
平均的な腟圧は20mmHg前後といわれているが、麻里さんは10mmHg程度と判明。カウンセリングの結果、腟の中で最も神経が集中するといわれる箇所にヒアルロン酸を注入する施術を受けることとなった。
「このヒアルロン酸を腟の入り口から3〜5cmほど中に入ったあたりに注入します。腟を狭くして腟圧が高まる効果が期待でき、また腟内の湿潤環境を保ちやすくなります。施術にかかる時間は10分程度で、痛みもほとんどありません」(井上さん)
使用するヒアルロン酸の種類や量によって異なるが費用は13万〜20万円程度。ヒアルロン酸は自然に体内に吸収されていくため、効果の持続期間は、約半年から1年が目安だという。麻里さんもこの施術後に腟圧は、倍の20mmHgに。その後は夫婦生活も再開したという。