NHKの朝ドラは、視聴者の幅広さやその視聴習慣という点からも独特な枠である。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が考察した。
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通信大手KDDIによる大規模な通信障害が発生してから約一週間。通話やデータ通信のみならず、物流や119番の救急連絡など命に関わる事案にまで不具合が起こり、日本中が混乱しました。今回の出来事によって身に沁みたこと。それは私たちの生活において、いかにスマホが「インフラ」となっているのか、でした。
さて、話はそこまで大げさではないけれど、「インフラ」という視点から考えてみると、なるほどと合点するのがNHK朝ドラの存在です。毎朝8時から15分間、月曜日から金曜日(土曜日は振り返り編)。舞台は、都市や有名観光地のみならず日本全国津々浦々。名も知らぬ地域も舞台になり、気候や生活・文化が少しずつ違う多様性に満ちた風土を背景にしてさまざまな人や仕事、生活ぶりが描かれていく。
朝ドラの視聴者数は2000万人超(『ちむどんどん』初回、タイムシフト視聴含む。ビデオリサーチ調べ)、とにかく巨大なボリュームです。しかも個人宅のテレビだけでなくお店や病院、待合室など公共的な場でも日々流されている大衆性。そう、内容の好き嫌いを超えてNHK朝ドラは、いわば日本の「生活・文化的インフラ」なのだ、と気付きました。
という気付きから、今放送中の『ちむどんどん』を見てみると。多くの指摘や疑問点、批判が寄せられていることにも、なるほどと腑に落ちるものがあります。
インフラだとすれば、日本で暮らす多くの人々が一般的に共有している感性や慣習、常識に基づいて物語が描かれていくはず……無意識のうちに視聴者はそれを期待している。
たとえば、頂き物はまず頂いた人に渡す。その人がいないところで勝手に中を開けない。ましてや、食べてしまったりしない。
清潔さを大切にする。料理人は身ぎれいにするのが当たり前。厨房では髪をアップしてまとめるのは常識。
約束事は勝手に覆さない。一度「銀座の高級料理店」という設定にしたら、突然大衆食堂のようになってはいけない。料理人が床にひっくり返って料理をぶちまけたり、予約なしに大勢押し寄せたりすると、視聴者との約束が反故になってしまう。