7月10日に初日を迎える7月場所で、元大関・朝乃山が1年ぶりに土俵に戻ってくる。自身の起こしたスキャンダルによる6場所出場停止処分で、番付は三段目まで落ちた。どのようにして絶望的な状況からの再起を期すのか──。
「相撲を愛し、力士として正義を全うし、一生懸命努力します」
2年前の3月、大関昇進の伝達式で朝乃山はそう口上を述べた。その姿を見守り、伝達式後の会見に同席した父・石橋靖さんは、「すがすがしいというか、大きくなったなと思う」と話し、息子の成長に目を細めていた。
しかし、朝乃山の大関としてのキャリアはわずか1年あまりで暗転する。
昨年の5月場所中に、緊急事態宣言下でのキャバクラ通いが『週刊文春』の報道で発覚。朝乃山は当初、相撲協会の事情聴取に対して「事実無根」と否定したが、スマホの位置情報などの調査が進むと、一転して事実を認めた。虚偽の報告をしたこともあり、6場所の出場停止と50%の減給6か月という厳しい処分が下された。
出場停止の1年の間に番付はどんどん下がり、今年3月場所で幕下に。処分が解ける7月場所では三段目西22枚目として復帰する。
「不祥事発覚後に朝乃山は引退届を提出し、今もそれが協会預かりとなっている。一時は廃業も頭にあった。ただ、そこから復帰に向けて1年間の謹慎生活を耐えてきたのは、最大の理解者であった父・靖さんの死が大きかったのでしょう」(相撲ジャーナリスト)
朝乃山の処分が決まったのは昨年6月11日に開かれた協会の臨時理事会でのこと。その直後から立て続けに、親しい人との別れがあった。6月27日に祖父・稔さんを亡くし、続けて8月16日には父・靖さんが急性心原性肺水腫で急逝したのだ。
「謹慎生活に入った直後だったため、朝乃山は祖父の葬儀には参列できませんでした。父が亡くなった時には地元・富山に戻ったが、当時、番付としてはまだ協会の看板である大関であったにもかかわらず、協会や高砂部屋の関係者からは先代のおかみさん(元大関・朝潮の夫人)が参列しただけでした。
父・靖さんは、息子の大関昇進をいちばん喜び、本場所には富山から駆け付け、朝乃山が不甲斐ない相撲を取ると電話して叱る熱心な人だった。不祥事で謹慎となった時も、関係者に頭を下げて回り、朝乃山を精神的に支えた。それだけに、突然の死に朝乃山のショックは大きかったはずだ」(同前)