【著者インタビュー】加藤直人さん/『メタバース さよならアトムの時代』/集英社/1650円
【本の内容】
《メタバースとは何か?/僕はメタバースとは、人類の描いた夢の生活スタイルのことだと考えている》。先日、NTTドコモがメタバース事業に大きく舵を切ると報じられるなど、存在感を増すメタバース。そのプラットフォーム「クラスター」を運営する著者がメタバースの過去・現在・未来を、平易な言葉で具体的に綴っていく。《『ドラえもん』が4次元ポケットから出すアイテムは突拍子もないものばかりだった。(中略)しかし、メタバースでは当たり前のように実現できるものがたくさんある。/『ドラえもん』はメタバース時代を先取りした作品なのだ》など、卑近な例も引きながら展開していく。
近視眼的な追い方はもったいないと思う
「メタバース」という言葉を最近よく聞く。ゴーグルをつけてゲームをしたり、その中でライブに参加したり、没入感やリアルな身体感覚が得られるようだが、中高年の自分とはあまり関係ない世界だと思っていた。
メタバースの代表的なプラットフォーム(動作環境)を提供する、クラスター社を創業した加藤さんの『メタバース』を読むと、この先、自分も完全に無関係ではいられそうにないことがわかる。
メタバースは、単にゲームやサービス、VR(バーチャル・リアリティ)のゴーグルのことだけを指すのではなく、これからの生活スタイルを変えていく思想や、イデオロギーでもあるらしい。
取材は、コロナ禍ということもあり、オンラインで行われた。
「いまって過渡期なんですよ。コロナ前だったら、たぶん、こういう取材も会議室に集まってやりましたよね(笑い)。インターネットがどんどん普及していくなかで、メタバースをめぐる現在の状況も、人類の革命とひもづいていると、ぼくは考えています。情報革命というこの変革は、おそらく100年、200年かけて起こるような大きい波だと思うんです。『メタバース』が世界的なバズワードになっているからといって近視眼的な追い方をすると、波にさらわれて消えていってしまうかもしれないし、それだともったいないんですよね」
本の副題は、「さよならアトムの時代」。つまり、「アトム(原子)」=物質に行動が制約された時代が終わり、物質から解き放たれて、行動が自由になる時代へと移行することを示唆している。
18世紀から19世紀にかけて起きた産業革命で、「モビリティ(可動性)の時代」が到来し、人もモノも、それまでと比べて飛躍的に大きく移動できるようになった。
次に来るのが「バーチャリティの時代」で、人類は質量から解放され、実質的な価値をつかむ方向に舵を切ったと加藤さんは言う。
「仮想現実」と訳されるバーチャル・リアリティは、1990年代、2010年代にも話題になった。バーチャルを「仮想」ではなく「実質、本質」とするのが適切だと加藤さん。
「VRのゴーグルをつけてするゲームもメタバースですけど、メタバースの実装と、思想は分けて考えたほうがいい。ぼくは、メタバースを物質から解放された生活スタイルをめざすべきだというイデオロギーだと考えます。
本にも書きましたけど、電気自動車って別にエコじゃない。いちばんエコなのは、移動せずにオンラインで人と会うことです。人間の精神的な充足を考えたとき、食事や排泄といった生命維持活動はバーチャルにはしづらいけど、その上の階層、文化的な営みはすべて置き換わっていくと思います」