体調に異変が生じた時に頼りになるのが薬だが、薬は副作用などのリスクが伴うもの。女性や高齢男性が服用することが多い「便秘薬」は、飲み続けることで自力での排便ができなくなり、薬に依存するケースがある。内科医の谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎)は、こう話す。
「年齢を重ねると腸の働きが悪くなり、便秘薬に頼ることが男女共に増えます。起こりがちなのが、刺激性の便秘薬に依存するようになってしまうこと。安全性が高い非刺激性の酸化マグネシウムでも飲み続けると、高マグネシウム血症のリスクが高まります」
同様に、習慣性が懸念されるのが睡眠薬や精神安定薬だ。
「これらは漫然と飲みがちな薬の代表です。『飲まないと眠れない』と、癖になってやめられなくなる。徐々に量が増えるケースもあります。ご高齢の方で不眠を訴える方は多いですが、若い頃のように8時間しっかり眠る必要はなく、処方薬を使うにしても頼りすぎないようにすべきです」(同前)
高齢になって飲み始める薬としては、抗認知症薬が挙げられる。
「認知症予防との名目で、『飲んでおけば安心』という人がいます。ただ、十分な予防になるかは疑問です。フランスでは利益が不十分として保険適用から外されました。しばしば抗認知症薬による副作用が問題になることもあり、服用によるデメリットがメリットを上回る可能性も否定できません」(同前)
さらに慢性疾患で数値のコントロールに欠かせない生活習慣病治療薬についても注意を促す。
「そもそも生活習慣病の薬は病気を根治させるわけではなく、服用中の数値を抑えて改善するだけです。飲んでおけば安心と思わず、食生活の改善や運動習慣を身につけるなどの努力も必要です。生活習慣病は、もちろん加齢の影響も大きいので、誰もが努力で薬をゼロにできるわけではありません。
ただ、いくら副作用が少ない生活習慣病の薬とはいえ、長期の服用によって問題が生じることもある。薬に頼ってばかりで生活を改善しないと、どんどん薬が増えて多剤併用状態になり、それによって不調に陥るリスクが上昇します。そのため、生活習慣病薬は『無闇に増やさない』意識が大事です」(同前)