国を挙げてアピールし、弊害や副作用の問題が繰り返し報道されてきたはずなのに、やめることができない「多剤併用」。今年6月に発表された統計によれば75才以上の4割が5種類以上、4人に1人が7種類以上の薬を服用している状況だ。
自然治癒力を高めて健康長寿を体現するために、そしていざのむべきときに効果を充分実感するために、無駄な薬をやめる“断薬”は必須だ。しかしいざやめたいと思ったとき、何が必要なのか。
「薬を減らしたいと思ったら、いちばん大切なのは“よきパートナー”を見つけることです」
そう話すのは、重度の糖尿病を患い、薬漬けの生活から復活した経済アナリストの森永卓郎さんだ。
「糖尿病が判明したのは2009年。当時はテレビやラジオのレギュラーが14本、雑誌や新聞の連載を37本抱え、合間に講演もする多忙な日々が10年近く続いていました。ひどいときは睡眠時間2時間で、残り22時間働く状況です。そうなると常に何か口に入れていないと起きていられない。いつも何か食べていました。甘い炭酸飲料もたくさん飲んで、いま考えると無茶苦茶な生活をしていたと思います」(森永さん・以下同)
ある日、脚に強いかゆみを感じた後、あっという間に腫れ上がった。仕事の合間をぬって病院で血液検査をすると、血糖値を示すHbA1cの値が11.4%だった。
「正常値は5.6~5.9%だとされていることから考えれば、恐ろしく高い数字です。8%を超えると神経障害や視覚障害が出てくるといわれており、実際に眼底検査をしたらかなり出血していて、失明の危険もありました。当時52才でしたが、医者から『このままでは60代を迎えられない』とまで言われました。
その日から、インスリンの分泌を促進する注射と、インスリンの注射をお腹に打つ日々が始まりました。自分で注射するので、神経に針がささると痛くてたまらない。のみ薬も食後に3種類ほどのんでいました」
治療のおかげでHbA1cは9%まで落ちた。とはいえ依然として高い数値のまま、5年が経った。
「転機はテレビ番組の企画で通い始めた『ライザップ』です。週2回のトレーニングと食事療法を2か月半続けたところ、体重が20kg落ちました。その頃にはHbA1cは5.8%と完全に正常値に戻り、眼底出血もなくなりました。死ぬ寸前だといわれていたのが、2か月半で薬の服用の必要がなくなったため、医師も驚いていましたね」
森永さんが「幸運だった」と当時を振り返るのは、すい臓に症状が出ていなかったことと、食事や運動を管理・指導する存在がいたことだ。
「糖尿病の専門医も『こんなに劇的な回復例は見たことがない』と言うほどの奇跡だった(笑い)。複数の医師にうまくいった理由を分析してもらったところ、数値は最悪で大事に至る一歩手前だったものの、血糖値を抑えるインスリンを分泌する役割を果たすすい臓に症状が出ていなかったことが決め手だったようです。
加えて担当トレーナーの存在も大きかった。もともと医師から『生活習慣を改善しなければ治らない』と再三言われていましたが、人間は意志が弱いもの。食事メニューを毎回トレーナーに送って原稿用紙3枚分くらいのフィードバックが返ってくるようになってはじめて、本腰を入れて取り組めるようになりました。
いまは妻にトレーナーの役割をしてもらっていますが、医師に加えて身内でも友達でも、こうした“見張り役”のようなパートナーを見つけるべきだと思います」