“決行日”の前日の早朝4時頃。男は奈良市内の4階建ての雑居ビルの前にいた。恨みがあるという宗教団体の施設だ。手に抱えた凶器の引き金をビルの外壁に向けて引くと、大きな音とともに、コンクリートの外壁とアルミ製のドアフレームに勢いよく穴が開いた。
散らばるように6か所。直径1cmほどの小さな穴だが、それは男が“作り出した”凶器が、目的を達成するに足る威力と精度を持っていることを意味していた。この銃口を向ければ、人の体などひとたまりもないだろう──そう男は確信したはずだ。
一般の人には想像もつかないだろうが、犯行に使われた銃は「手作り」だった。安倍晋三元首相(享年67)に銃口を向け、死に至らしめた山上徹也容疑者(41才)は「YouTubeの動画を参考に銃を製造した」と供述している。
犯行当日、山上容疑者が握りしめていたのは、一見すると銃とは思えない、黒いビニールテープでぐるぐる巻きにされた物体だった。テープの隙間からは、銀色に光る筒のようなものが、2本並んで覗いている。筒の下には木の板が添えられ、後方からは、電気コードのようなものが伸びている。サイズは長さ約40cm、高さ約20cmとかなり大きく、重々しさが伝わってくる。軍事ジャーナリストの竹内修氏が分析する。
「銃身は鉄パイプに、木の板をテープで巻きつけて固定しているだけでしょう。報道写真を見ても、特殊な金属や強化プラスチックで作られた銃には見えない。ホームセンターなどで売られている、ごく身近な素材だと考えられます」
山上容疑者は「自分で作り方を調べて部品を買い、ネットで購入したものもある」と供述。鉄パイプや板を購入している人を見かけて、「まさか銃を作るつもりでは」と疑う人などいないだろう。
「銃弾も自作した。一度に6個の弾丸を発射する仕組みだった」
山上容疑者はそうも供述している。自宅からは、インターネットで購入したとみられる空の薬莢や弾を入れるプラスチック容器も見つかった。竹内氏が続ける。
「16世紀頃からある『ラッパ銃』と呼ばれる銃に近い仕組みだと考えられる。弾丸の素材の断定はできないが、鉄粉を熱し固めたものも銃弾になり得る。束ねたネジや釘、石でも代用でき工具店やホームセンターで手に入るものばかり。
また、弾を撃ち出す際の火薬は、発射時に煙が出ていることから、『黒色火薬』だと思われます。正規購入には資格が必要ですが、匿名のネット掲示板などで売買されていますし、身近なところでは手持ち花火で使われており、かき集めるなりして入手できる」