近すぎる関係
甲子園で起きる性被害の背景には、取材者と被取材者の「近すぎる関係」がある。元朝日新聞記者の女性はこう語る。
「基本的に記者は入社して研修を終えると地方の総局(支局)に配属され、2~3年目で高校野球を担当します。地方の総局(支局)は読者の人気が高い高校野球の報道にかなり力点を置いています。若い記者は取材先に入り込み、他社には書けないエピソードを拾うことが求められます。すべての学校がそうではありませんが、高校野球は男性社会の縮図のようなところがあり、その中で女性記者が取材するのは難しいところもあります」
地方大会を勝ち抜いてたどり着く甲子園では、主催する新聞社(春のセンバツは毎日新聞、夏は朝日新聞)の記者と出場校の密着度がさらに高まる。
朝日新聞の女性記者が語る。
「男女を問わず担当記者は地元の出場校の監督や部員たちと同じ宿舎に泊まります。主催社の記者が高野連との連絡役や他メディアの取材の仕切り役も担うので、期間中は毎日顔を合わせますし、移動するバスにも同乗します。宿舎で監督や選手らと夕食を共にしたり、取材を兼ねた懇親会として監督やコーチらとビールを飲んだりすることもあります。チームの宿舎がホテルではなくレトロな旅館の場合は、貸し切り状態なのでより距離感が近くなります」
この女性記者は甲子園のアルプススタンドで注目選手の父兄やOB、同級生らに取材をしようとすると、「エッチさせてくれたらイイ話教えます」「飲みに行きましょうよ」と迫られたりすることはあったという。
「冗談だと受け流すことができる記者もいれば、注目選手の関係者と親しくなることは是とされるので対応に悩む記者もいるはずです。社内でもこうした近すぎる関係性から、実際に監督と恋愛関係になり結婚した女性記者のことが武勇伝のように語り継がれている一方、セクハラや性被害を受ける危険とは紙一重の状況だと感じます。主催社という立場もあり、現場の若手記者が性被害に遭ったとしても、高野連や甲子園出場校の野球部との関係上、なかなか被害を訴えることは難しいとも思います」(同前)
高校野球という「閉じられた男社会」も問題発生の要因となると前出の柴田氏は語る。
「高校野球は選手も指導者も全員男性で、女性はケア要員やチアリーダー役です。“男が主役”という価値観が浸透している集団の中に女性記者が『主催社』側として現われても、正当に扱われず“慰安役”のようにみなされてしまうのではないでしょうか」
(後編に続く)
※週刊ポスト2022年7月29日号