菅氏中心の政治体制
安倍氏は再登板以降、自民党の支持基盤を大きく変質させてきた。従来の支持層の伝統保守や業界団体に加えて、安保政策のタカ派路線で若い保守層、急進的な保守層、さらに日本会議など改憲推進勢力を取り込み、経済政策ではアベノミクスという改革路線でベンチャー経営者などを惹きつけ、「安倍応援団」といわれる独自の支持基盤を築いたからだ。
その力で自民党政権を安定させ、安倍長期政権の岩盤となった。しかし、そうした“コアな保守”の多くはいわば安倍氏個人の支持層であり、下村氏が言うように「安倍派がつかんでいた」わけではない。
安倍氏の死によって、自民党から離れていく可能性は十分にある。早くもそうした傾向が見える。保守勢力の動向に詳しい「宗教問題」編集長の小川寛大氏が指摘する。
「安倍派の後継者候補の顔触れを見ると、安倍さんの支持層だったコアな保守を引き継げる人はいません。自民党内で強いて挙げれば高市氏ですが、まだとても安倍さんのような求心力はない。今回の参院選では、参政党など保守派のミニ政党が乱立し、急進保守の票の一部が流れた。これまでは安倍さんの存在がそうした票を自民党につなぎとめていたわけですが、その死によって岩盤保守はリベラル派の岸田自民党を離れようとしている。安倍応援団の多くは支持する先を失って次の保守リーダーが現われるまで潜在化するのではないか」
安倍氏のもうひとつの実績が、従来の金融・財政政策を大転換したことだ。この「改革路線」の思想を引き継ぐのが、安倍政権の官房長官としてともにアベノミクスを推進した菅義偉・前首相と、日本維新の会の勢力と見ていい。
安倍氏は首相に再登板する前から「維新との共闘」を志向していた。
「維新の会がいう統治機構の改革は我々の目指す戦後レジームからの脱却と底流に流れる考え方が共通している」(本誌2012年9月7日号のインタビュー)
その言葉通り、政権に復帰すると維新と協力関係を深めた。安倍退陣後も、跡を継いだ菅氏が安倍政権の経済ブレーンを引き継いで規制改革を進め、維新とのパイプを一層強めた。
折しも、菅氏は今、新たな政策グループの結成準備を進めている。