生地にはどれくらいの強度が必要か。色合いはどうするか。死産の赤ちゃんは、皮膚がしっかり形成されておらず、脆かったり身体から血液や滲出液がにじんだりもする。血液などが漏れないようにするにはどんな生地が適しているか。どんなデザインのドレスなら、お母さんたちにかわいいと感じてもらえて、抱っこもできるのか。
デッサンの後は、型紙を起こし、布を切り、ざっと縫ってみる。2時間ほどで、試作品が完成した。「あとは、微調整です」と山本さんはエンジェルドレスを手に取って説明する。
「ここに袖がありますけど、実際に手は通せません。機能という点で言えば、この袖は必要ないのですが、飾りとして残そうと思いました。お母さんがエンジェルドレスを着たわが子を見たときに、かわいい赤ちゃんだと思ってもらえるようにしたかったんです」
既製品のおくるみや産着と異なる点は、エンジェルドレスの背中部分に織り込まれたパッドである。赤ちゃんを抱っこしたいという母親の希望を叶えるためには、力を失った体を支えるパッドが必要だったのだ。何度かの試作の末、生地は、漂白や染色を加える前の生成りのコットンにした。
「死産の赤ちゃんは、肌の色も健康な新生児とは違います。生成りの色なら顔色もよく見える。シンプルで落ち着いた雰囲気になるし、柔らかい印象になる。どんな状態の赤ちゃんが着ても、みんながかわいく見えるように……そこをもっとも意識しました」
(第3回へ続く。第1回から読む)
取材・文/山川 徹(ノンフィクションライター)
撮影/宮井正樹
※女性セブン2022年7月28日号