安倍晋三元首相が凶弾に斃れた。父・晋太郎氏からの付き合いだった自民党の長老・久間章生氏(81、元防衛相)が先に逝った後輩を悼む。
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第一次安倍政権で防衛大臣を務めた時、退陣の理由となった病気について「何度もトイレに行かねばならず難儀している」などとよく聞いた。聞いていたのは、閣内では私くらいだろう。
というのも、安倍さんとは彼が父・晋太郎さんの秘書官だった頃からの知り合いで、当時運輸政務次官だった私と気軽に話す仲だった。
安倍さんは第二次政権になってからも安全保障に力を注いだが、私と一緒の時に彼は「日本の外務省は全部アメリカの発言とイコールなんだよ」と話していた。本音かは分からないが、外務省はアメリカと二重写しだと。
だから防衛省もそれに引っ張られてしまう。アメリカと協調するのはいいことだが、二重写しはどうか、そう懸念していた。
安倍さん自身、野党から「対米追随」と批判されたが、当人からすれば「それは外務省がそうだから」で、本人の思いは対米追随ではなかった、ということなのだろう。
安倍さんの外交はアメリカに引きずられるばかりではなく日本としてどうするかを考え、協調関係を築いたものと評価する。海外の要人と会って、喧嘩別れしたとは聞いたことがない。誰とも上手に付き合える点で素晴らしい政治家だった。
特にロシア外交は非常に良かった。今はウクライナの問題があるので事情が変わったが、北方四島を抱えている日本はNATOのような対ロ強硬姿勢ではなく、それなりの協調関係が望ましい。彼はプーチンと個人的な関係も構築して、うまくやっていた。
トランプ前大統領との関係もそうで、最初のべったりとした感じが、どんどんモノを言い合える関係に変化したように感じる。北朝鮮についても表向きは喧嘩しているが、水面下では何かやっていたのかもしれない。拉致問題解決のため、もう一回、北朝鮮に行ってやる、くらいのことを思っていたのではないか。
安倍さんが亡くなり、外交の舵取りはどうなるか。安倍さんだからこそ、中国をやり過ごしてロシアとも付き合えた。アメリカと親しいように見せながら、譲れない部分はきっちり主張できていた。
安倍外交を継承できる人材が自民党にいるのか。非常に心配だ。
※週刊ポスト2022年7月29日号