安倍晋三・元首相は、自分の考えを「明確な言葉」で表現する政治家だった。だからこそ、影響力を持ち、時に賛否の分かれる議論を呼んだ。『週刊ポスト』と国際情報誌『SAPIO』での経済についての発言を改めて振り返ると、政治家として何を追い求めていたのかが浮かび上がってくる。
2012年の首相再登板後は、「アベノミクス」を掲げたが、政治家キャリアの早い段階から経済政策への言及もあった。
〈日本の人口は間もなく減少時代に突入していく。(中略)納税者が減り、経済が縮小に向かう(中略)一方で、グローバル化は不可避な流れ。たとえ、自民党の支持団体とぶつかるとしても、さらなる規制緩和を示していかなければ〉(『週刊ポスト』2006年1月13・20日号掲載)
規制緩和は後に金融緩和、財政出動に続くアベノミクス“3本目の矢”として打ち出される。
一度目の政権が短命に終わった背景に保守色を前面に出しすぎたことがあった反省からか野党時代にはこうも語っていた。
〈強い経済力を持ち続けることによって、私たちは誇りある国を作っていくことができると考えています。(中略)経済政策においては「小さな政府」であるべきだと考えますが、それはアメリカの「リバタリアン」とは違います。
日本は農耕民族として水を分かち合って暮らしてきた、皇室を中心に五穀豊穣を皆で祈ってきた国です。一部の人間が勝者となってすべてを取ってしまい、あとはチャリティに頼る、というアメリカ的な思想は日本には馴染みません〉(『SAPIO』2010年1月27日号)
首相在任時の大規模金融緩和は株高などを実現させたが、デフレからの完全脱却には至らなかった。そして、世界的な物価高でアベノミクス路線の継続が問われるなか、安倍氏はこの世を去った。
安倍氏が29年の政治人生のなかで世に問うたことの多くは、まだ答えが出ていない。
※週刊ポスト2022年7月29日号