命を絶つことを考えるほどつらいことがあった人の悩みを聞いてくれるのが、全国に50か所以上ある「いのちの電話」だ。24時間365日相談員が対応している「埼玉いのちの電話」の事務局長・内藤武さんは、
「私たちが最も大切にしているのは、相談者の“声”に直接、耳を傾けることです」
と言う。
「埼玉いのちの電話」の昨年1年間の相談件数は2万1986件で、そのうち自殺をほのめかす相談は14.4%だった。一本の電話にかける時間は平均39分。相談員が、相談者の話に集中して、じっくり内容を聞くだけでも、気持ちが落ち着いてくるという。直接話すことで、人の温かみを感じてもらえ、かつ、相談者側の切迫感も感じられるのが、電話のよさだ。
「いくつもの悩みが複雑に絡み合っているケースが多く、人に話すことで悩みの要点が整理されるようです」(内藤さん・以下同)
相談にのるのは、素人のボランティア相談員だが、彼らは1年半の研修のほか、各種講義を受けて相談に臨んでいる。秘密厳守も徹底されており、相談者が語った内容は、家族にも誰にも決して明かさない。
「問題もあります。それはボランティア相談員の数が足りないこと。それで、電話がつながりにくい点は私たちとしても歯がゆいところなんです」
自殺を考えている人は、ほとんどの場合、ギリギリの状況で相談をしてくる。自殺未遂を起こした人も、
「『いのちの電話』には何度かかけてみたが、一度もつながらなかった」
と話している。こういった声を踏まえ、「いのちの電話」では、10年ほど前からインターネットによるメール相談もホームページから受け付けている。こちらの方が自殺傾向の相談が多く、全体の約40%を占める。
「電話よりメールの方が深刻な相談がしやすい、という人も多いんです。1週間以内には必ず返信するシステムになっています。電話が混雑しているときでも、メールなら必ずつながるので、ひとりで悩まずにぜひ話を聞かせてください」
すぐにつながりたいならチャット相談もある
一方で、メールでは対応が遅いという意見もある。
そういう場合、すぐに対応できるようにと設立されたのが、NPO法人「あなたのいばしょ」だ。ここでは、24時間365日、チャット(リアルタイムにメッセージを送信できるインターネットサービス)で相談を受け付けている。代表の大空幸星さんはこう話す。
「見ず知らずの人との会話が苦手だったり、そばに危険な相手がいる場合、電話はしにくいケースも。そこでぼくたちは、チャット相談を始めました」(大空さん・以下同)