安倍晋三元首相の銃撃事件で、“過失”が指摘されているのが、当日警護に当たったSP(セキュリティポリス)だ。狭き門をくぐり抜け、過酷な訓練を経た精鋭たちは、結果として守るべき命を守れなかった。その悔恨と苦悩は計り知れない。
安倍氏の後援会幹部が声を詰まらせる。
「後援会長が警視庁から派遣されていたSPに電話をして、『決してお前の責任ではないからな』と伝えたのですが、当人はもう号泣するばかりで、ひとことも発せなかったそうです。
安倍さんならきっと、こういう時に『キミじゃなくてよかったよ』と言っていたのではないかと思うのですが、あまりの憔悴ぶりに、かける言葉がなかったといいます」
衝撃の事件から2週間あまり。この間、「警備上の不備」が浮き彫りになってきた。埼玉県警で要人警護を経験した、警備会社「セーフティ・プロ」代表の佐々木保博氏が語る。
「街頭演説が行なわれた大和西大寺駅前は、周囲を道路で囲まれたオープンスペースで、“狙ってください”と言わんばかりの場所。徒歩や車で近づくことも容易だし、周囲の建物から狙撃される危険性もある。初めからリスクの高い場所だったといえる」
政治家は一般市民に不便をかけまいと、演説時の交通規制を避ける傾向があるといわれ、選挙期間中の警護は難点がいくつもある。そのうえで、外国の日本大使館で要人警護の経験のある元警視庁公安部の松丸俊彦氏はこう指摘する。
「SPは安倍氏の真後ろで背中合わせになって警護すべきでしたが、それができていなかった。通常、SPが要人の背後につく場合は、片手を伸ばして要人に触れられる距離にいなければならない。そして不審な音がしたら、すぐに要人に覆い被さる。安倍氏と数メートル離れていた位置取りにも、大きな問題があったと言わざるをえません」
いざという時に要人に覆い被さることは、要人を的として小さくするだけでなく、自分の命を捨て「人間の楯」となることを意味する。SP経験のある元警視庁職員が語る。
「自分がSPとして要人警護に向かう時は、“家族の顔を見るのはこれが最後”と覚悟して家を出ていました。それが毎日続くのですから、過酷な仕事です。だからこそ、自分が生き延び、守るべき安倍氏を死なせてしまったSPたちの苦しみや後悔は、言葉では表わせません」