今もその対応に悩まされている新型コロナウイルスだけでなく、人類は様々な感染症とともに生きていかなければならない。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、ウクライナで流行が危険視されている「コレラ」についてお届けする。
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ウクライナのマリウポリで上下水道が戦闘で破壊されたことで、コレラの流行の危険性が指摘されています。
コレラは感染者の便で汚染された水や食物を口から摂ることで感染します。病原菌はビブリオ・コレラという細菌で、コンマ型で鞭毛を振って動きます。感染者の約8割は症状を出さないのですが、発症した患者の2割は重症な脱水を伴った下痢症を発症し、重症患者となって適切な治療がない場合の致死率は50%に上ります。
潜伏期は約1日と短く、初期は普通の下痢便から始まり、後には水分だけが出て便の色も匂いもなくなります。これがコレラ特有の米のとぎ汁様の灰白色の水様性便です。重症となってしまうと1日に10リットルから数十リットルもの下痢を起こし、激しい嘔吐とひっきりなしの下痢で重い脱水症状と血漿中の電解質異常をきたします。そうなると手足の筋肉に痛みを伴う、強い痙攣が起こります。このような場合、点滴による輸液で水分を補い、適切な抗菌剤の投与などの治療を速やかに受けることが必要で、そうでない場合には死に至ることもあるのです。
コレラには経口ワクチンがありますが、2回接種してもその効果は数か月程度なので、感染防御には有効なものの、コレラ対策の追加手段に留まっています。そして現在も、アジアや中東、中南米などの地域を中心に世界各地でコレラの発生・流行があります。流行地では夏季に患者発生が多く、水の塩素消毒が行なわれている先進国では発生が少なくなります。
流行を起こす主なコレラ菌には、アジア型とエルトール型があります。アジア型は古典型とも呼ばれ、激甚な症状で19世紀にパンデミックを繰り返しました。一方、エルトール型は病原性がマイルドで、現在主として流行しているのは幸いにもこのエルトール型です。しかし、アジア型コレラでも患者の発生があり、無くなったのではありません。