処方された薬をのみ切れない「薬ののみ残し」が大きな問題になっている。厚生労働省の調査によれば、5割以上の患者が薬をあまらせた経験があり、約9割の薬局でのみ残しがある患者を抱えていることがわかった。医薬品にも莫大な医療費が支出されており、国家財政の圧迫にもつながる社会問題だ。
可能ならば減らしたい「薬」。ただ、薬の中でも特に「減薬しづらい」といわれるのが向精神薬だ。くどうちあき脳神経外科クリニック院長の工藤千秋さんは薬を減らせるかどうかは患者の意識にかかっていると話す。
「スムーズに向精神薬を減らせる患者の特徴は、医師とコミュニケーションをとって信頼関係を築こうとする人。精神系の薬を服用している患者は“薬をやめるのが怖い”と思い込んでいることが多く、話し合って減らしていきますが、『減らすのが怖くて、毎日のんでしまいました』という人は、いつまでたっても減らせない。そのうち“ドクターショッピング”が始まって、別の医療機関に行ってしまう。
インターネットで知識をつけすぎて、自分が“インターネットドクター”になっている人も減薬は難しい。医師が何を話しても、ネットで調べたことが正しいと思ってしまうからです」(工藤さん・以下同)
「いい医師は薬を減らす」をモットーに治療に取り組んできた工藤さんの減薬法は“だまし、だまし”だ。
「精神系の薬は特に、急に断薬すると、いままで体に入っていた薬がなくなるので、症状のリバウンドが起きてしまう。体に察知されないように、少しずつ、1種類ずつ減らしていくのがコツです。例えば1週目は、ある薬を1日おきにのむようにする。それで問題がなければ、次の週は2日おきに、その次の週は3日おきにする。すると1か月で1種類の薬をやめることができます。時には、1錠の薬を半分に割ってのんでもらうこともある」