大相撲7月場所の成績を見るまでもなく、正代、御嶽海、貴景勝の3人の大関陣がファンの期待に応えていると言い難い。一方で、3大関が故障を抱えながら土俵に上がっているという事情はある。
「かつては大関互助会などという言葉もあったくらいで、最後は大関が全員負け越さないように星を調整していたような時代もあったが、2010年の八百長問題発覚以来、ガチンコが徹底され、ケガも増えた。9勝6敗くらいの成績で大関の地位を維持する“クンロク大関”が揶揄された時代とは違う。それも事実だ」(相撲ジャーナリスト)
そうしたなかで、「仕組みを見直すべき時がきているのではないか」と指摘するのは、相撲協会の公益財団法人化に際して設置された「ガバナンスの整備に関する独立委員会」で副座長を務めた慶應大学商学部の中島隆信教授だ。
「大関昇進の目安は『3場所33勝』ですが、昇進後にその水準の成績を維持できる大関はほとんどいない。それをクリアできた大関は、『2場所連続優勝に準じた成績』ということで横綱に昇進していく。その結果、大関は中途半端というか不安定な力士のたまり場になってしまう。これは今の制度では仕方がないこと。改めるには、昇進のハードルを上げて、その代わりに陥落しにくい仕組みが必要ではないか」
大関昇進に際して「3場所33勝」に達していないケースも多数ある。横綱昇進も「準じた」の解釈の幅がある。協会としては、興行の目玉となる横綱や大関が欠けるのは避けたい意図もあるのだろう。しかし、それが今のような事態を招いた可能性があるという指摘だ。
「ガチンコ相撲を徹底するとケガが付き物になる。にもかかわらず大関が2場所連続で負け越すと陥落する仕組みでは、故障を抱えながら無理して出るとか、地位を守るために相撲が小さくなることがある。
昇進のハードルを上げることとセットで、大関だけはケガをして休んでも番付が落ちない公傷制度を復活させる選択肢もあるのではないか。ある程度安心して相撲が取れる環境を作らないと、どうしても本来の強さは出てこない。大関で不甲斐ない相撲を取る力士が増えれば、大関の地位そのもののイメージが悪くなる。改善していくのは相撲協会の責務ではないかと思います」(中島氏)
照ノ富士が一人横綱なのだから、本来なら当然、大関陣が毎場所のように優勝争いに絡んでこなくてはならない。そうなっていない以上、令和の大相撲のどこかに、問題があることは間違いない。
※週刊ポスト2022年8月5・12日号