【プーチンと習近平・連載最終回】習近平が父親から多大な影響を受けたのと同じように、父のトラウマがウクライナ侵攻へ駆り立てる原動力となったプーチン。そんな2人が抱く「同じ夢」が、今後の世界情勢を左右することに──。ジャーナリスト・峯村健司氏がレポートする。(文中敬称略。第1回から読む)
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プーチン失脚説に激怒
厳しいネット規制が敷かれている中国。数百万人の「ネット監視員」が、政府批判の書き込みがないかどうか、目を光らせている。そんな厳戒下にもかかわらず、3月11日に中国政府の外交方針を批判する書き込みが波紋を呼んだ。
「プーチンと一緒にされてはいけない。中国が同じ船に乗れば、プーチンが失脚した際に巻き添えを食らうからだ。一刻も早く手を切るべきだ」
上海市共産党委員会の幹部養成学校の教授、胡偉(こい)が「ロシア・ウクライナ戦争の起こりうる結果と中国の選択」と題した論文をインターネット上に発表した。
胡は、国務院(政府)に政策を提言する国務院参事室公共政策研究センターにも勤務したことがある政策ブレーンの一人。この論文も上層部に提出したものだった。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、国際社会が対ロ批判を強めているにもかかわらず、盟友、ウラジーミル・プーチンを擁護する習近平への痛烈な批判だった。
政府関係者による習批判とあって、中国国内ではすぐにアクセスできなくなった。しかし、コピーされた論文の画像が、SNS上で瞬く間に広まった。論文が書かれた背景について、胡の同僚だった中国の大学教員が解説する。
「胡氏はハーバード大学で研究したことがある優秀な研究者です。論文の大意は、欧米諸国と相対してロシア寄りの姿勢を崩さない上層部を心配する共産党と政府のなかの大多数の本音でしょう。ところが、論文のある部分が上層部を激怒させたと言われています」
はっきりとは言わなかったが、前後の文脈から「上層部」とは習近平のことを指しているのは確かなようだ。この大学教員が指摘するのが、論文中の次の部分だ。
「西側の制裁は前例のないレベルに達しており、ロシアの人々の生活は深刻な影響を受けている。反プーチンの勢力は結集しつつあり、政変が起こる可能性も否定できない。ロシア経済は崩壊寸前で、プーチンの権力維持は困難だろう」
習の盟友、プーチンの失脚に言及したことが逆鱗に触れたようだ。論文は、当局によって「秒シャン(ミャオシャン=1秒で削除されること)」された。だが、批判はこれだけにはとどまらなかった。5月上旬、外交をつかさどる中国外務省関係者からも批判の声が上がった。
「ロシアの優勢は、ウクライナの頑強な反撃と、西側諸国の巨大で有効な援助により打ち消された。プーチン氏のリーダーシップによる『ロシアの復興』と呼ばれるものは、存在しない偽りの命題だった。ロシア側の完敗となって終わりを告げることになるだろう」
駐ウクライナ大使を務めた高玉生が、中国政府系シンクタンクが主催した非公開のオンライン講演会でこう指摘した。この講演内容を香港メディアが報じて、中国国内でも広がったものの、これも「秒シャン」された。ロシアで勤務をしたことがあり外交政策にも助言をしている元外交官による露骨なプーチン批判は、波紋を呼んだ。