フィギュアスケート界の英雄・羽生結弦(27才)が7月19日に会見を行い、競技人生に1つの区切りを付けた。2014年のソチ五輪で日本人男子として初の金メダルを獲得すると、2018年の平昌五輪では、男子では66年ぶりとなる連覇を達成。その経歴で燦然と輝くのは五輪での活躍だが、羽生は五輪以外の舞台でも観客を虜にしてきた。
2012年ニース(フランス)の世界選手権では、SP7位からフリーで2位へと大躍進(総合3位)。あまりの気迫に実況は「世界を震わす17才」と叫んだ。
「ステップに入る前、片手を上げて“行くぞ~!”と雄叫びを上げた。拳を握りしめて、まるで牙をむくように真っ白な歯を覗かせて叫んだんです。会場がユヅ一色に染まった瞬間でした」(40代女性)
10年来の羽生ファンを自認する女優の室井滋さんが「何回でも見たい」と言うのは、2012年のスケートアメリカでの演技『パリの散歩道』だ。
「ジュニア時代から“すごい子がいる”ことは知っていましたが、『パリの散歩道』を見て“わぁ”って目を見張りました。技術の高さはもちろんですが、それ以上に惹かれたのが表現力。本当に軽やかで、パリを散歩しているみたいで。気持ちよさそうに心からスケートを楽しんでいるのが印象的でしたね。競技ということも忘れて無邪気に踊る姿に、魅了されました。いまでもVTRを見るたびに胸が躍ります」(室井さん)
震災直後には「スケートを続けてもいいのか」と悩んでいた羽生。苦しい思いも抱えながら、2012・2013年シーズンは全日本選手権で初優勝、GPファイナル2位と飛躍した。
「『パリの散歩道』でまさに世界に打って出る、というタイミングでしたね。その後、彼はたくさんのものを背負うようになっていくけれど、このときはまだ18才の少年。隠しきれないあどけなさがかわいいのに、技術は世界レベルでそのギャップがたまらなかった。競技会をやめたら、がんばりすぎないで、また純粋にスケートを楽しんでほしい。もう一度あの頃の羽生くんが見たいです」(室井さん)
輝かしい功績の裏で、羽生の競技人生はけがとの闘いでもあった。2014年のGPシリーズ中国杯では練習中に中国選手と激突し転倒するアクシデントに見舞われた。しばらく動けず、立ち上がったときには頭と顎から出血し、誰もが「棄権」するものと思った。「それでもリンクに戻った姿が印象的でした」と、コラムニストの今井舞さんは話す。
「頭と顎に痛々しいテーピングを施し、コーチが棄権をすすめても拒否。見たことないほどの険しい表情でリンク中央に出て、音楽が流れるとスッと自分の世界に入っていく。どんなトラブルにも対応できる精神力と、流血さえ“絵になる”情景にしてしまう、羽生さんらしさが表れた象徴的なシーンでした」
一方、「かわいさ」でファンを魅了したのが、2015年のGPファイナルでの「ひと言」だ。
「自身の持つ歴代最高得点を更新したとき、キスアンドクライで、大好きなくまのプーさんのぬいぐるみを膝に抱えて、英語で“おれ、なんで泣いているんだろう”と言いながら感極まって大泣き。涙が止まらない自分に驚いたような困ったような表情を浮かべていました。でも口元はうれしそうにほほえんでいて。リンクで見せない表情に悶えました」(30代女性)