警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、過去の事件を振り返り、不法滞在の外国人が事件や事故に巻き込まれ亡くなったあとの遺骨の移送に関する難しさについて。
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その遺体は都内のあるアパートの部屋の押し入れから、白骨化した状態で見つかった。10年以上前のことだ。発見された遺体は不法残留の外国人男性。同居していた女性に殺害されていたのだ。事件を担当した捜査員たちが事件解決に向け、捜査を行ったのはもちろんだが、彼らは白骨化した遺体を母国に帰国させるためも動かなければならなかった。
日本の法律では、白骨化した遺体であっても、火葬してから収骨しなければならないという。そして、オーバーステイなどで不法滞在になっている外国人が死亡した場合は行旅死亡人という扱いになり、遺体については亡くなった場所の自治体が担当することになる。事件や事故で警察が関わる場合も、原則としてそれは変わらず、どこの国の人か分かる場合には大使館に身元の照会をかけながら、遺族の意向をくみとりつつ火葬や埋葬を行うこともあり、そのために計上されている予算の中で手続きをしている。
荼毘に付すのはいいが、ここで問題が生じてくる。「収骨したお骨を、どのように母国で待つ家族の元へ返せばいいのか、(前述の白骨化した状態で見つかった外国人男性の事件を担当した)捜査員たちにはわからなかった」と、事件の捜査関係者は話す。行旅死亡人として自治体は、火葬はできるが、母国へ送る費用は負担できないという。
遺体でも遺骨でも日本から母国へ移送するには、当該国によって定められた手続きと書類が必要になる。遺体の場合は、遺体として出国するための書類、母国で提出する死亡届を出すための書類が必要となり、当該国によってはその国の大使館や領事館の認証が必要になる。亡くなった訪日外国人が社会保険や旅行保険など何らかの保険に加入していれば、保険会社がその費用を持ち、保険会社から依頼された葬儀会社などが書類の準備や手続きを行うのが常である。だが被害者は不法残留者だったため、保険などは何一つかけていなかった。
保険がなくとも、正規にビザを取得して滞在している外国人が死亡した場合、国の費用で家族を日本に行かせたり、国が火葬費用等を出したりすることができる国もあるという。しかし、いかに自国の国民が日本で亡くなったとしても、不法滞在者であった場合は、移送に関する費用が出ないことが少なくない。このため不法滞在者は誰かが(家族であることが多いが)費用を負担しないかぎり、移送することが難しくなる。国によっては、自国民であっても、不法滞在者として死亡し、その死が変死扱いになった場合は、火葬も埋葬も関知しないという国もあるらしい。