「国民との触れ合い」と「要人の安全確保」──安倍晋三元首相銃撃事件からは、その両立の難しさを痛感させられた。衝撃の余波が続く7月21日、天皇皇后両陛下と秋篠宮ご夫妻が、明治神宮(東京・渋谷区)へと足を運ばれた。明治天皇が亡くなって110年を迎えるにあたってのご参拝だった。
午前9時過ぎ、両陛下を乗せた車がゆっくりしたスピードでJR原宿駅近くの第一鳥居の前の広場を通り過ぎると、集まった人たちから大きな歓声があがった。
アイボリーの帽子を被り、同色のドレスに身を包まれた皇后雅子さまは、笑顔で会釈を繰り返しながら手を振られていた。そのお隣で、天皇陛下は車窓から顔がよく見えるように体を斜めに傾け、右手をさっと上げられていた。
「安倍元首相のことがあったので、警備がすごく強化されて遠くからしかお姿を拝見できないかな…と心配していたのですが、雅子さまのお顔をよく見ることができました」(皇室ファン)
1975年に沖縄を訪問された上皇ご夫妻(当時は皇太子ご夫妻)に向けて火炎瓶が投げられた「ひめゆりの塔事件」に代表されるように、皇族がテロの標的にされたケースはある。
一方、警戒を強めれば強めるほど、国民との距離感は離れていく。両陛下をはじめ、皇族方が体現しようとしていらっしゃる、「国民とともに歩む皇室」、「国民に寄り添う皇室」とのギャップができてしまうのだ。
明治神宮でその日、警戒にあたった警察官は50人ほど。ほとんどがスーツ姿で、制服警官は少数だった。
警察官の1人は「“いつなにがあっても両陛下をお守りする”という気概で以前から警備にあたっていますので、(元首相銃撃事件の前後で)警備体制は変わっていません」と力強く答えた。