春8回、夏12回の甲子園出場を誇る千葉県立銚子商業高校野球部は、打線の上位から下位までヒットが途切れない「黒潮打線」と評されてきたが、近年は甲子園から遠ざかっている。『甲子園と令和の怪物』(小学館新書)の著書があるノンフィクションライターの柳川悠二氏が、古豪である銚子商の現在地を追った。
【千葉 銚子商】最後の甲子園出場/2005年 最高成績/優勝(1974年)
高校野球には千葉の時代があった。1974年夏に、篠塚和典(元巨人)や土屋正勝(元中日ほか)らが核となった県立銚子商の黒潮打線が爆発。現在まで県勢最多の29勝を挙げている。翌1975年はやはり公立の習志野が深紅の大優勝旗を千葉に持ち帰った。
だが、ライバルが2019年春のセンバツで準優勝したように強豪であり続けてきたのに対し、銚商は2005年夏が最後の甲子園。その後は夏の千葉大会で4年連続の初戦敗退を喫した時期もあった。
野球と銚商をこよなく愛す港町のファンは、古豪の復活を待ち望む。だが、往時を知らない現代の球児は、「古豪」という昔は強くとも今は弱いという印象を抱かせる言葉に嫌悪感すら抱いていた。
伝統は受け継ぐものではなく、自らが勝ち取って新たに生み出していくもの──そう考えたナインがこの春の千葉大会で快進撃をみせ、準優勝に輝いた。OBでもある監督の澤田洋一はこうコメントした。
「17年も甲子園から遠ざかり、『無理だろう』という声も届いている。銚子商は常に甲子園が目標。負けん気の強い選手たちの奮起を期待したい」
保護者会から提供されたというiPadを駆使し、ナインらの投球動作やバッティングフォームを動画に収め、練習後にはプロ野球選手の動画と見比べて研鑽してきた。
その結果、抜け目のない打線は黒潮打線を彷彿とさせる。捲土重来の日は近いはずだ。
※週刊ポスト2022年8月5・12日号