1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏が、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、第1回から足を運んでいる競走馬のセリ市「セレクトセール」についての後編をお届けする。
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今年のセレクトセールは2日間の落札総額が初めて250億円を突破しましたが、高額落札馬が多かったというよりも、1頭あたりの平均価格が高かったなあ、というのが第一印象です。いくらセレクトされた馬ばかりとはいっても、どの馬にも高値が付くことはないはずですが、常にパンパンと値が上がっていった感じでした。
ディープインパクトやキングカメハメハといった絶対的な種牡馬がいなくなった後、ハーツクライが引退、ドゥラメンテが昨年急死したことで購入できる機会がなくなるし、エピファネイアやキズナの産駒が多く上場されたのも大きかったのでしょう。これらの種牡馬はすでに実績がありますが、まだ産駒がデビューすらしていないレイデオロやサートゥルナーリアに対する期待感も後押しした印象です。
さらに2024年から「ダート三冠」という路線が整備されることになって、ダート血統の馬にも注目が集まって高値を付けたということもあったのではないでしょうか。
セール前には各牧場で上場馬を見て回りました。走りそうかどうか判断するのは難しいことですが、牧場で馬を見るのはとても楽しい時間です。馬を見る時は、やはりそれぞれの「好み」が大きいと言われます。全体のバランス、顔つきとか歩き方、もちろん血統と、いろんな人がその人なりの尺度をもって馬を選びます。
僕は騎手としていろんな馬を見てきました。自分が乗らなかった馬も含めてずいぶん見てきたつもりです。いい馬は乗った瞬間に「お、この馬走るぞ!」といった感覚もあったのですが、跨らずに馬を判断しなければならないというのは、いままでにはない経験です。なかなか言葉にはできないけれど、自分の中には「こういう馬!」というイメージはあります。見た瞬間、これだとピンとくるようなものかもしれません。
200頭ぐらい見てこれはと思う馬が15頭いたとしても、さまざまな条件をクリアするのが5頭ぐらいです。予想される価格ももちろんですが、上場する牧場が過去の検査結果やけが、癖などの情報を公開しているので、それもチェックし、牡馬か牝馬か、芝・ダートどの路線を目指すか、馬主さんと相談して当日のセリに臨みます。