夏の甲子園出場を目指して全国で行われる地方予選大会のなかでも、愛知県は175校と全国でもっとも参加校が多い。その愛知県で長らく「私学4強」と呼ばれるのは、中京大中京、愛工大名電、東邦、享栄の4校だ。『甲子園と令和の怪物』の著者であるノンフィクションライターの柳川悠二氏が、4校のうちもっとも甲子園出場から遠ざかっている享栄高校の現在地をレポートする。
【愛知 享栄】最後の甲子園出場/1995年 最高成績/ベスト8(1948年)
愛知私学4強の一角、享栄は、全国の強豪校から大人気だ。週末になると、立派な球場と総工費約3億円という室内練習場のある本拠地を離れて遠征に。京都国際や県立岐阜商業とは年間何試合も戦い、この夏を前にしても智弁和歌山や敦賀気比、日大三、東海大相模といった名門校とも腕試しを行なってきた。
「勝率は、およそ8割です。うちの選手の体つきを見て、『どうしたらそんなに大きくなるんだ!?』とよく言われますね。ただ、体は大きくても打てないんですよ……」
そう笑顔で嘆息したのは監督の大藤敏行だ。中京大中京のOBで、2009年夏には同校を率いて全国制覇を遂げた彼が、県内のライバル校への“禁断の移籍”を決断したのは2018年。しかし、前評判の高いチームを毎年、作ってはいるものの、甲子園にはたどり着けていない。
「こいつら、内弁慶なんです。自分たちの庭で試合をする分には力を発揮できるんですが、いざ公式戦で中京大中京や東邦、愛工大名電とやると、20年以上も甲子園に出場していないコンプレックスから貫禄負けしてしまう。力の劣る相手となると今度は舐めてしまって足を掬われる。それを払拭するために、遠征を繰り返してきました。ようやく実力通りの試合運びができるようになってきた」
就任5年目となり、手ごたえを感じている。今夏は愛知大会ベスト4となった。“聖地への帰還”に懸ける思いは、大藤が人一倍強いはずだ。
※週刊ポスト2022年8月5・12日号