かつてネット掲示板で企業の不正を告発する内容が書かれても、名指しされた側は無視を決め込むのが通例だった。事件化してようやく、あの書き込みは本当だったのかと振り返られることもあった。ところがいま、たとえ匿名アカウントからであっても、SNSで具体的に不正が告発され拡散されたなら、かつてのように企業が無視を通すことが難しくなってきている。大阪王将の支店をめぐる衛生管理等の問題は、その典型的なものだろう。俳人で著作家の日野百草氏が、SNS発の内部告発が企業を動かしたことをきっかけに、労働者と経営との関係の変化について考えた。
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「厨房にナメクジ大量発生の告発ね。ああいう告発、これからも確実に増えると思います」
飲食チェーン加盟店(以下、加盟店)の元店長(40代)はこう断言する。彼は筆者の旧友でいまは別の仕事をしているが、以前は店長として飲食店を切り盛りしていたことがある。彼の店長時代、何度か店に足を運んだことがあるが、店員たちは笑顔で楽しそう、なかなか良い雰囲気だったことを覚えている。
「そう言ってもらえるとありがたいですが、そうでない店も多い、それは当然の話ですが」
視線が泳ぐ。彼の「確実に増える」というのは餃子で知られる中華料理チェーン(本部)のフランチャイズ加盟店において、店員の男性が「ナメクジ超大量発生してます」「ザルにもいるから気をつけて」といった店舗責任者とのやりとりをSNSなどで公開したことだ。その他にもTwitterで店の衛生状態から料理の質までツイートを続けるだけでなく、YouTubeで配信もした。本部はついに「外部からの侵入があった」ことを認め、「所轄保健所からご指摘をいただいた通り」として謝罪した。
「あれはフランチャイズの話ですが、客の多くは直営店舗(レギュラーチェーンとも。本稿では直営とする)と加盟店の違いなんてわかりませんからね」
加盟店は中小企業なので経営者次第
外食、小売りチェーンの大半は直営店と地場の中小企業による加盟店とで分かれている。詳しい人なら見分けがつくが、一般消費者の中には知らない、気にしていないという人も多いだろう。直営店は外食チェーン運営本体が経営するが、加盟店は加盟したオーナーが本体のノウハウや名前を使って経営する代わりにロイヤリティを支払う。店舗だけ見ると名前は一緒だが、実際は加盟企業がその名前で店を開いている。もちろんそれぞれ独立企業なので、例えばコンビニAの経営をやめてコンビニBを経営するのも自由である。
「どちらが偉いとかはないですが、やはり直営のほうが待遇はいいでしょうね。これは愚痴みたいで申し訳ないですが、お年寄りなどに『CMで有名な○○の社員さんなら給料いいでしょう』なんて言われると困ります。実際は誰も知らない有限会社○○の社員だったりするので」