7月8日、凶弾に倒れた安倍晋三・元首相。9月27日に日本武道館で国葬が実施されることが決まり、改めてその存在感の大きさがうかがえる。
亡くなった直後から、安倍氏が演説を行なっていた奈良県・西大寺駅前や、地元である山口・下関の安倍事務所に設けられた献花台には、ひっきりなしに人が訪れていた。気になるのは、その献花の行方である。
西大寺駅前の献花台に供えられた花は、ボランティアが定期的に段ボールに移し替えてトラックに積み込んでいた。その後、「回収された花は肥料になる」(ボランティア)という。一方、山口・下関の安倍事務所に供えられた花の行き先は違っていた。
安倍氏が亡くなって1週間が経った7月15日、真夏の日差しの中、安倍事務所に設置された献花台にはまだ人の列が絶えなかった。家族連れなどが続々と詰めかけ、車で遠方から訪れている人もいた。
その日、午後5時を過ぎると青色のゴミ収集車が事務所の裏口にある駐車場に止まった。すると事務所から出てきた礼服姿の後援会関係者とみられる男性が、無言で集まった花を収集車に詰め込んでいたのだった。下関市で廃棄物処理業を営む会社経営者がこう話す。
「安倍事務所にあった献花は、事務所から依頼を受けてうちの会社が回収しました。急な依頼だったので、当日空いていた従業員が回収車を運転して直接引き取りに行きましたね。お引き取りしたものは、一般廃棄物として他のゴミと一緒に処分させていただきました」
ちなみにこの会社経営者は安倍氏を支援していたという。肥料にはならず、ゴミとして処分された安倍事務所の献花。後援会関係者は口惜しそうにこう語った。
「銃撃の話を聞いてすぐ、安倍事務所には後援会の幹部が集まり、安倍さんの死亡が伝わると涙する人もいた。すぐに献花台を準備しなくてはという話になり、設置させてもらいました。当初は、献花は7月12日の19時までと予定していたのですが、人の流れが途切れないため、7月15日の17時まで延長されることになったんです。
お花は安倍さんが亡くなられた翌日から続々と届き、一時は『下関中の花屋から花が消えた』と言われていたほど。事務所の中に設けていた献花台に花をずっと置いていたのですが、夜はエアコンを切っていたため、傷みが早い花もあった。そうしたものは事務所の裏のほうに避けていたのですが、それでもスペースが足りなくなってしまい……。仕方なく、ゴミとして回収していただくことにしたんです。
事務所の中は本当に花でいっぱいになっていて、それが安倍さんへの市民の気持ちだと思うと胸が一杯になりました」