上司の命令に嫌でも従わなければならないとき、怒りを直接相手にぶつけるのではなく、仕事をわざと遅らせるなど、間接的に反抗心を示す人たちがいる。そうした行動のことを「受動的攻撃行動」と呼ぶが、単なる嫌がらせとは違い、業務全体に影響を及ぼしかねない。このタイプの人が職場にいたら、どう対応すればいいのだろうか。リアルケースから専門家のアドバイスを紹介する。
【ケース1】落ち込むふりで妻の出世の足を引っ張る夫
夫(43才)と私は職場の同期。おっとりとした性格でやさしい夫と、猪突猛進タイプの私は正反対の性格でしたが、子供にも恵まれ、結婚して10年、平穏に暮らしてきました。
ところが、3年前に大きな変化が……。
それは私が課長に昇進したことがきっかけでした。それまで同じ平社員だったときは、家事も育児も協力し合っていたのですが、私が仕事で遅くなることが増え、夫の家事・育児負担が重くなったんです。すると、
「課長は忙しくて大変だよね。いや、すごいよ。おれには到底できない」
「どうせおれは万年平社員だからさ、家事と育児くらいおれがやるよ、気にしないで」
などと暗い表情でねちねち言ってくるんです。ほめているようでほめていないんですよね。私の出世がおもしろくないと、遠回しで伝えてくるわけです。でも、家事も育児も夫任せの日々が続いているので、文句は言えません。私も申し訳なくて、
「あなたに負担がかかるようなら、私、課長職を退くか、いまの会社を辞めようかな?」
と言うと、
「そういうことを言っているんじゃないんだ。それじゃあおれが悪者みたいじゃないか。きみはおれを傷つける天才だな」
と言って部屋に引きこもる。夫がそんな感じだから、家の中の雰囲気も暗くなり、小学生の娘まで、
「ママは私たちより仕事が大切なの?」
などと聞いてくる始末。どうやら夫に毎晩そう言われているようなんです。夫はそもそも出世欲がなく、
「あくせく働かず、マイペースで仕事をしたい」
と言っていたのに、一体どうしてこれほど私を妬むのか──私までうつっぽくなってきたので、いまは仕事を辞めるか、離婚をするか、本気で悩んでいます。(45才・会社員)
【精神科医が解説】相手のいい部分を言葉で伝える
「ご主人は劣等感を、妻を“口撃”することで解消しています。“悔しい”と言うのはプライドが許されないし、きついことを言って自分を悪者にしたくない。だから、自分が傷ついているふりをして妻を傷つけているわけです。こういう場合、“そんなことを言われたら私も傷つくので言わないほしい”と伝えたうえで、“私が仕事に集中できるのはあなたが子育てを一緒にしてくれるおかげ”と、夫のいい面や、助かっている行動を言葉にして伝えるといいですよ」(精神科医・井上智介さん)