安倍晋三・元首相を銃撃した山上徹也容疑者は、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に入信した母親が全財産を教団に貢いだため裕福だった家庭が崩壊、貧困の中で育ち、憎しみのはけ口を安倍氏に向けた。しかし、それとは逆に、同教団には安倍氏を熱心に応援する2世信者たちがいた。
旧統一教会が安倍氏と支持層に食い込んだのには、教団側の事情が深く絡んでいる。
もともと安倍・岸家と旧統一教会の関係は安倍氏の祖父・岸信介元首相から始まる。岸氏は自宅の隣にあった旧統一教会の本部に足を運び、教祖・文鮮明氏とも会談、次第に関係を深めていったとされる。
旧統一教会は1968年に友好団体の「国際勝共連合」を設立し、反共産主義運動を展開していくが、日米安保条約改定反対運動で首相の座を追われることになった岸氏は、左派勢力の拡大を抑えるために教団に近づいたと見られている。
文氏が1984年に米国での脱税容疑で実刑判決を受けて収監されると、岸氏は当時のレーガン大統領宛に文氏は反共主義者だとして「適切な措置」(釈放)を求める親書を送ったほどだ。
そうした関係は安倍氏の父・晋太郎氏(元外相)にも受け継がれ、旧統一教会・勝共連合は「反共」で一致する自民党議員に食い込んでいた。
しかし、安倍政権時代に旧統一教会と自民党の関係は質的に大きく変化した。宗教社会学が専門の櫻井義秀・北海道大学大学院教授が指摘する。
「反共を掲げていた文鮮明氏は1991年に北朝鮮を訪問して当時の金日成主席と会談し、それをきっかけに統一教会は北朝鮮に投資を始めた。反共活動の大義名分を失うわけです。そのため、勝共連合は生き残りを模索せざるを得なくなった」
折しも、旧統一教会の霊感商法や合同結婚式が社会問題化して批判を浴び、教団の日本での活動は低迷、2009年には霊感商法など強引な寄附集めをしないという「コンプライアンス宣言」を行なう。