芸能界には子役から活躍するタレントは多いが、夏ドラマでは子役出身の女優たちの躍進が目立つ。なかでも今旬の3人の女優について、コラムニストで放送作家の山田美保子さんがその魅力を解説する。
* * *
「吉川愛が出ているのだから、何かある」
夏ドラマで輝く演技派のヒロインと言えば、『拾われた男LOST MAN FOUND』(Disney+「スター」/ NHK BSプレミアム)の伊藤沙莉、『初恋の悪魔』(日本テレビ系)松岡茉優、そして『純愛ディソナンス』(フジテレビ系)の吉川愛。彼女たちの共通点は、「子役出身」だ。
吉川は、吉田里琴(よしだ・りこ)名義で『山田太郎ものがたり』(TBS系)、『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)、『メイちゃんの執事』(フジテレビ系)などに出演した人気子役だったが、学業に専念するため引退。高校に入り、パン店でアルバイトしていたところを現在の所属事務所『研音』にスカウトされたのをきっかけに復帰し、「吉川愛」として一からスタートした。
子役時代からのファンも含め、彼女が画面に出てくるたび、「本当に演技がうまい」とSNSがおおいに盛り上がる。『義母と娘のブルース』(TBS系)のような実年齢に近い明るい役よりは、ゲスト出演ながら主役を食ってしまう迫真の演技が真骨頂。天海祐希と何度も対峙した『緊急取調室3rd SEASON』(テレビ朝日系)や、同作最終話での強烈な印象が視聴者の脳裏に生々しく残るタイミングで出演した『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)の第1話と第2 話。さらにはダンスを愛する白髪の女子高生を演じた『ラジエーションハウスⅡ~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)のように、容疑者や被害者、悩みを抱える少女役などで凄まじい演技を見せるのだ。
現在ヒロインを務める『純愛ディソナンス』(フジテレビ系)でも、「吉川愛が出ているのだから、何かある」と、その視聴率以上に今後の展開に期待を抱く視聴者が少なくない。特に、“毒親”ともいうべき富田靖子との絡みは壮絶だったし、物語が“5年後”となった現在は、教師から人気小説家に転身した比嘉愛未や、「先生」=Hey!Say!JUMP中島裕翔の前で千々に乱れる吉川の演技から目が離せない。
4日、第5話の予告を見ていたら、富田靖子が再び登場。比嘉愛未が吉川に仕掛ける残酷なゲームの結末にも注目が集まる。
松岡茉優、バラエティでの活躍とカメレオン女優ぶり
続いては松岡茉優だ。先に事務所からスカウトされたのは妹の元子役・松岡日菜(ひな)で、母親と共に妹の面接に同行した際、「お姉ちゃんもやってみる?」と言われ、事務所入りしたのは有名な話である。
子役時代の出演作として最初に記されているのは、2007年7月期、TOKIOの山口達也や成海璃子がメインだった『受験の神様』(日本テレビ系)。役名は「松木茉優」だった。芸名に役名を寄せるのは『ごくせん』シリーズでも使われた手法(大石雄輔→上地雄輔、毛利研一→松山ケンイチ、船木健吾→高良健吾、三沢ヒロ→水嶋ヒロなど)で、“その他大勢”だったという証拠。スタッフが、大勢いる児童役、生徒役を覚えるためのワザである。
「松岡茉優」の名前と顔が多くの視聴者に覚えられたのは、2013年上期の連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)内で、御当地アイドルグループ「GMT47」のリーダー「入間しおり」を演じてからだろう。
一方で、バラエティー番組にも数多く出演してきた松岡。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」を皮切りに、2014年からは、おぎやはぎと『うつけもん』『オサレもん』など「もん」シリーズ(フジテレビ系)に。2015年からは、ナインティナインと共に『ENGEIグランドスラム』(同・不定期)のMCを務めている。2014~2016年、筆者は、関根麻里、柳原可奈子が“街ぶら”をリードした『正直女子さんぽ』(同)で松岡と仕事をしている。器用な関根と柳原の後ろで遠慮してしまう場面もあったが、独特のトークセンスがあった松岡は「笑いに理解のある女優」としてバラエティー班のスタッフからの評判もいい。