大ヒットを記録している映画『トップガン マーヴェリック』。同作品の字幕翻訳を担当し、長年、主演のトム・クルーズの通訳として活躍してきた戸田奈津子さん(86才)が“通訳引退”を表明したことも話題になった。戸田さんが、トム・クルーズのほか、多くのハリウッドスターとの交友について語る。【全5回の第4回。第1回から読む】
周囲の人たちから見上げられるって“居心地悪い”
「家族で京都に行くから、一緒に来て!」
ロバート・デ・ニーロからそんな誘いの電話が入ったかと思えば、ロビン・ウィリアムズの家族旅行には3度にわたって同行する。「わび・さび」を理解する日本通であるリチャード・ギアとは大の仲よしで、トム・クルーズからは年末になると熨斗に「御歳暮 トム・クルーズ」とカタカナで書かれた贈り物が届く──。
「人間関係において気をつけているのは下から見上げたり、上から見下ろしたりせず、常に素のまま、自分の目線で接すること。それさえ守れば、相手もきちんとオープンにつきあってくれる。それはスターが相手でも、普段の友人づきあいでも同じことです。
たしかに最初こそオーラやたたずまいに圧倒されるかもしれないけれど、どんなスターでも5分間一緒にいれば、自分と同じ人間だとわかる。有名人を相手にするとちやほやして持ち上げようとする人が多いけど、当の本人からすればとても居心地が悪い、“unconfortable”な状態なのです」
戸田さんがそのことを体感したのは、オスカー俳優のロバート・デ・ニーロとの初対面だった。
「彼は紙一重の狂人みたいなシリアスな役が多く、徹底した役作りを行うことで有名でした。周囲からも“神経質で怖い人らしい”と散々脅かされ、私もビクついていました。だけど実際に会ってみると優しさと思いやりにあふれた人だった。
人の意見に左右されて、先入観を持ってしまったことを反省しました。それからは他人がなんと言おうと絶対に耳を貸さず、相手のことは直接、自分の目で確かめて判断しなきゃいけないと思うようになりました」
仕事ではスターに付き添って日本全国を飛び回っているが、プライベートでも旅行や外出がリフレッシュになっていると戸田さんは言う。
「つい先日も北海道・千歳の航空自衛隊基地に招かれ、『トップガン マーヴェリック』でトムが飛んだものと同じ『F15』の戦闘機のコックピットに座ってきました」
米寿を前にしてエネルギッシュで若々しい秘訣はどこにあるのか。