1972年に『週刊マーガレット』で連載がスタートした『ベルサイユのばら』が誕生50周年を迎えた。原作漫画だけでなく、アニメ化もされ社会現象にまでなったこの名作だが、宝塚歌劇団(以下、宝塚)による舞台化作品も高い支持を得ている。
宝塚において漫画を舞台化するのは『ベルサイユのばら』が初めてだった。宝塚内部からの反対、原作ファンからの非難を乗り越え、どう成功に導いたのか──。宝塚で初代オスカルを演じた榛名由梨さんに聞いた。
人間にオスカルさまが演じられるものか!
金髪碧眼、10等身のスタイル、そして何より星を宿した輝く瞳……連載当初から人気を博していた男装の麗人“オスカルさま”。それを生身の人間が演じられるものか──初演前の下馬評は批判に満ちていた。
宝塚は当時、テレビに押されて、人気が停滞気味だった。起死回生と創設60周年記念となる作品を探し、専属脚本家の植田紳爾さんが見つけてきたのが、少女漫画『ベルサイユのばら』だった。当時は、漫画原作を歴史ある宝塚でやるべきではない、などと内部から反対の声も上がったが、植田さんたちは推し通したのだ。
「私がオスカル役をいただいたときの非難といったら、それはすごかった(笑い)。かみそりが送られてきたり、“夜道には気をつけろよ”なんて手紙まで届いて……。
宝塚の男役で一人前になるには10年ほどかかるといわれていて、ちょうど11年目に訪れた大抜擢だったんですね。だからこそ、非難されようと誠心誠意取り組む覚悟でしたが、オスカルはこれまで宝塚では扱ったことのない少女漫画の主人公で、しかも女性でありながら男性として生きている。私たちが演じていたのはあくまで男性ですから、これまでにない役柄に戸惑いがあったことは確かですね」(榛名さん・以下同)
宝塚にとって初めて尽くしの舞台。そこで、演出は歌舞伎の女形出身であり、男性も女性も演じられる時代劇のスター故・長谷川一夫さんが担当した。長谷川さんは、画中のオスカルを食い入るように見つめると、それに近づけるためのメイクを榛名さんに指導。さらに、
「オスカルの目には星が飛んでる? それなら目から星飛ばしや」
と、榛名さんの瞳にピンライトを普通より多く当てた。
「視線の流れも大切だとおっしゃって、“客席の2階の手すりあたりから視線を落として『い23席』付近へと視線を移して”という具合に細かく指導してくださる。衣装で足が隠れていても気を抜かず、足の開き具合はバレエの3番にするとか、ドレスを着ての輪舞の速度にしても、最も美しく見えるようにこだわって指導してくださいました。私も食らいつくのに必死でした」
稽古場には長谷川さんの演技指導をひと目見ようと、故・淡島千景さんら先輩タカラジェンヌも訪れたほどで、こうしたことは異例だったという。