スポーツ

佐々木朗希・高校3年の夏【後編】完全試合で報われた大船渡高校の部員たち

捕手の及川(写真右端)は大学で野球を続ける選択を

及川捕手(写真右端)は大学で野球を続ける選択を

 今年も「夏の甲子園」が開幕する。ただ、才能溢れる球児が必ずしも聖地に辿り着くとは限らない。最たる例がロッテ・佐々木朗希だろう。高3の夏、岩手大会決勝でまさかの「登板回避」。決勝で先発のマウンドに上がったのは、大船渡高校で背番号「12」を付けていた控え投手・柴田貴広(現・大東文化大学3年)だった──。

 当事者たちは今、どう振り返るのか。当時の國安陽平監督やナインの克明な証言を収録した新刊『甲子園と令和の怪物』の著者・柳川悠二氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む。文中敬称略】

 * * *

なんで僕?

 1対9と大勢が決した7回に國保はようやく継投を決断する。だがマウンドに送ったのはやはり大会初登板となる2年生左腕の前川真斗だった。

 前川も当時の正直な気持ちを吐露してくれた。

「出場するとは思っていなかった。突然の登板に気持ちの整理がつかず、頭の中が真っ白のままマウンドに上がりました。『なんで僕?』と思う余裕すらありませんでした。案の定、2者連続で四球……。心の準備ができていませんでした」

 前川は2対12で迎えた最終回の攻撃で打席に入り、ショートライナーに倒れた。その瞬間、ゲームセットになった。

「この時ばかりは自分が打席に入っていいのか、と。バッティングも良い朗希さんだって(ベンチに)いたわけですから……」

 岩手大会決勝の2か月後、佐々木の背番号「1」を受け継いだ前川は秋の岩手大会に臨み、沿岸南地区予選を勝ち抜き、県大会の3回戦まで進んだ。

「県の1回戦で延長10回を投げ抜いたあと、中1日が空いた2回戦は本来、自分は先発ではなかったんです。國保先生は登板間隔を気にして、先発回避を決めたんですが、どうしても投げたかった僕は志願した。朗希さんの登板回避ばかりが問題になりますが、國保先生は朗希さんだったから神経質になっていたわけではない。すべての投手の身体、肩ヒジのことを考えてくれる指導者でした」

 岩手大会決勝から1年後、2020年夏はコロナ禍によって岩手県の独自大会となった。前川にとっての最後の夏。敗北の瞬間、國保は前年の決勝に出場した前川と主将だけを呼んで、労いの言葉をかけていた。

「なぜ國保先生は決勝で僕を投げさせてくれたのか。それを分かりたいというか、自分の中で理解するために、1年間、頑張ったつもりです。ちょっと投げすぎちゃって、左肩を痛めた時期もあったんですけど」

 そう笑顔で語る前川は、國保の起用理由に関する答えを最後まで見つけられなかったが、「野球はやりきった」と思えた。だから北海道の大学に進学後、野球から離れた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《中居氏とも密接関係》「“下半身露出”は石橋貴明」報道でフジ以外にも広がる波紋 正月のテレ朝『スポーツ王』放送は早くもピンチか
NEWSポストセブン
異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(写真は2019年)
《体調不良で「薬コンプリート!」投稿》広末涼子の不審な動きに「服用中のクスリが影響した可能性は…」専門家が解説
NEWSポストセブン
いい意味での“普通さ”が魅力の今田美桜 (C)NHK 連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合) 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
朝ドラ『あんぱん』ヒロイン役の今田美桜、母校の校長が明かした「オーラなき中学時代」 同郷の橋本環奈、浜崎あゆみ、酒井法子と異なる“普通さ”
週刊ポスト
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”川崎春花がついに「5週連続欠場」ツアーの広報担当「ブライトナー業務」の去就にも注目集まる「就任インタビュー撮影には不参加」
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
広末涼子、「勾留が長引く」可能性 取り調べ中に興奮状態で「自傷ほのめかす発言があった」との情報も 捜査関係者は「釈放でリスクも」と懸念
NEWSポストセブン
筑波大の入学式に臨まれる悠仁さま(時事通信フォト)
【筑波大入学の悠仁さま】通学ルートの高速道路下に「八潮市道路陥没」下水道管が通っていた 専門家の見解は
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
《事故前にも奇行》広末涼子容疑者、同乗した“自称マネージャー”が運転しなかった謎…奈良からおよそ約450キロの道のり「撮影の帰り道だった可能性」
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン